公正証書で養育費を取り決めたのに、相手が養育費を払わない。このような場合、今から何をすれば回収できるのか分からず、困っている方も多いと思います。
公正証書に強制執行認諾文言があり、養育費の金額と支払日が明確に書かれていれば、養育費の金額を調停で決め直さなくても、相手の給与や銀行口座を差し押さえられます。
ただし、公正証書を持っているだけでは入金されません。最初に確認するのは、未払い額、公正証書の内容、差し押さえる相手の財産の3つです。
まず、この3つだけ確認してください- 1 いつから、いくら支払われていないか
公正証書と通帳を並べ、入金がない月と不足額を月ごとに書き出します。
- 2 その公正証書を強制執行に使えるか
強制執行認諾文言、正本、執行文、送達証明書があるかを確認します。
- 3 給与と銀行口座のどちらを差し押さえるか
給与なら勤務先の名称と所在地、預金なら金融機関名と支店名を確認します。
最初に、いつからいくら支払われていないのかを確かめます
公正証書と通帳・入出金明細を並べ、最後に入金された日を確認してください。次に、公正証書に書かれた毎月の金額と支払日を見ながら、支払われていない月を一つずつ書き出します。
月5万円が3か月支払われていない場合
毎月5万円を月末までに支払う約束で、4月分、5月分、6月分が入金されていなければ、未払い額は15万円です。5月に2万円だけ入金されていれば、その2万円を差し引き、未払い額は13万円になります。
申立書には、未払いになった月と金額を記載します。合計額だけではなく、「4月分5万円、5月分3万円、6月分5万円」のように月ごとに分けておくと、申立書を書きやすくなります。
一部入金があった月を見落とすと請求額がずれるため、通帳の入金履歴を月ごとに確認してください。遅延損害金を加える場合は、公正証書に利率の記載があるかも確認します。
相手へ連絡するか、差押えへ進むかは支払状況で決めます
公正証書があっても、必ずすぐ差し押さえなければならないわけではありません。一度だけ遅れ、相手から具体的な支払日の連絡が来ている場合と、何度連絡しても支払われない場合では、次に行うことが変わります。
今の支払状況に近い方を確認してください相手から具体的な支払日の連絡がある期限を決めて支払いを求める
未払い月、合計額、振込期限を文章で伝え、約束した日まで入金を確認します。
返事がない・約束が何度も守られない差押えの準備へ進む
公正証書の内容と必要書類を確認し、給与または銀行口座を差し押さえる準備を始めます。
相手へ連絡するときは、未払いの月、合計額、振込期限、振込先を文章で送ります。電話だけで終わらせず、LINE、メール、書面など、送った内容と相手の返事が残る方法を使ってください。
一方、返事がない、支払約束が何度も守られていない、相手への連絡で暴力や威迫のおそれがある場合は、直接の連絡を続けずに差押えの準備へ進めます。相手へ催促してからでなければ強制執行できない、という決まりはありません。
公正証書を開いて、強制執行に使えるか確認します
「強制執行に服する」という記載があるか
公正証書の終わりに近い部分を見てください。「直ちに強制執行に服する旨陳述した」などの記載があれば、強制執行認諾文言が入っています。
この文言があり、毎月の養育費と支払日が明確なら、その公正証書を使って差押えを申し立てられます。
文言がない場合は、その公正証書を債務名義として直ちに強制執行することはできません。ただし、2026年4月1日以後に支払期限が来た養育費は、養育費の先取特権を使える場合があります。
手元の書面に「正本」と書かれているか
差押えの申立てでは、公正証書の正本を使います。表紙や末尾に「正本」と表示されているか確認してください。「謄本」と書かれたものだけでは、公正証書を債務名義とする差押えを申し立てられません。
執行文と送達証明書があるか
執行文は、この公正証書で強制執行できることを公証人が証明する文書です。通常は公正証書正本の末尾に付いています。
送達証明書は、公正証書の謄本が相手へ送達されたことを証明する文書です。執行文付き公正証書正本と送達証明書が手元にあれば、差押え先の確認へ進めます。どちらかがない場合だけ、公正証書を作成した公証役場へ交付を申請してください。
給与と銀行口座のどちらを差し押さえるか決めます
裁判所は、公正証書だけを見て相手の勤務先や銀行口座を探してくれるわけではありません。給与を差し押さえるなら勤務先の名称と所在地、銀行口座を差し押さえるなら金融機関名と支店名が必要です。
分かっている情報に合わせて差押え先を選びます給与を差し押さえる勤務先が分かり、相手が継続して働いている場合に適しています。条件を満たせば将来分も対象にできます。
銀行口座を差し押さえる金融機関名と支店名が分かり、口座残高が見込める場合に適しています。命令が届いた時点の残高が対象です。
勤務先が分かり、相手が継続して働いている場合は、給与差押えが適しています。未払い分に加え、条件を満たせば、これから支払日が来る養育費にも差押えの効力を及ぼせます。
銀行口座の差押えは、差押命令が銀行へ届いた時点の残高から回収する方法です。口座残高が少なければ、未払い全額を回収できません。
勤務先も銀行支店も分からない場合は、先に財産を調べます
過去の給与明細、源泉徴収票、振込履歴、離婚時の資料、相手との連絡を見て、勤務先名や金融機関・支店名が残っていないか確認してください。
それでも分からない場合は、条件を満たせば、財産開示手続や第三者からの情報取得手続を利用できます。差し押さえる財産が分からないまま債権差押命令を申し立てても、裁判所がすべての財産を自動的に探すことはありません。
申立書と必要書類を地方裁判所へ提出します
差押えは、原則として相手の現在の住所地を管轄する地方裁判所へ申し立てます。
地方裁判所へ持っていく書類一式すべてを同じ場所で集めるわけではありません。書類名と、必要になる場面を見ながら確認してください。
- 申立てに必須
裁判所の申立書4点
給与と銀行口座では、差押債権目録の書き方が変わります。
- 公正証書と一緒に提出
公正証書関係の2点
どちらも手元にあれば、その書類を提出します。
- 差押え先を特定する書類
勤務先または銀行の証明書
勤務先や銀行の本店所在地・法人情報を裁判所へ示します。
- 変更がある場合だけ
住所・氏名のつながりを示す書類
公正証書に書かれた住所・氏名と現在の情報が違うときに提出します。
裁判所から追加書類を案内された場合は、その書類も提出します。
申立書は、裁判所の「養育費に基づく差押え」の書式を使います。給与を差し押さえる場合と銀行口座を差し押さえる場合で、差押債権目録の書き方が変わります。
申立手数料は原則4,000円です。このほかに郵便料が必要です。郵便料、提出部数、添付書類の扱いは裁判所ごとに確認してください。
勤務先や銀行に給与・預金があるか回答してもらいたい場合は、債権差押命令と一緒に「陳述催告の申立て」も提出します。
差押命令が出た後、自分で勤務先または銀行へ連絡します
申立てが受理されると、裁判所は勤務先または銀行へ差押命令を送ります。命令が届いた時点で、差押えの効力が生じます。
ただし、裁判所が養育費を振り込んでくれるわけではありません。勤務先や銀行から陳述書が届いたら、差し押さえられる給与・預金があるかを確認し、支払いを受ける手続へ進みます。

勤務先や銀行から支払いを受けたら、受け取った金額を記載した「取立届」を裁判所へ提出します。未払い分を全額回収できた場合は「取立完了届」を提出します。
勤務先や銀行が差し押さえたお金を供託した場合は、勤務先や銀行から直接受け取るのではなく、裁判所から届く配当手続の案内に従います。
公正証書があっても、必ず全額を回収できるわけではありません
給与差押えの途中で相手が退職すると、その勤務先からの支払いは止まります。銀行口座の残高が少なければ、差押えが認められても一部しか回収できません。
この場合は、新しい勤務先や別の銀行支店を調べ、残っている未払い額について改めて差押えを申し立てます。公正証書は何度でも自動的に回収してくれる書面ではなく、差し押さえる財産ごとに申立てが必要です。
公正証書があるのに進め方が分からない方へ
自分で申し立てることもできますが、公正証書の文言、未払い額、相手の住所、差し押さえる財産のどこかが曖昧だと、申立書を作る途中で手続が止まりやすくなります。
強制執行認諾文言が見つからない、正本か謄本か分からない、執行文や送達証明書がない、相手が転居・転職している、勤務先や銀行支店が分からない場合は、公正証書と入金履歴を弁護士へ見せると、今の状況から何をそろえるべきか確認できます。
公正証書はあるものの、どこから手を付ければよいか分からない場合は、お気軽にご相談ください。公正証書の写真と通帳・入出金明細があれば、未払い額、強制執行に使えるか、差し押さえる財産の順に確認できます。