取り決めた養育費が支払われず、催促しても入金がないときは、強制執行による差押えを検討することがあります。
「申立てをすると、裁判所が養育費を回収してくれるのでしょうか」と聞かれることもあります。
強制執行は、裁判所の差押命令により相手の給与や預貯金などを差し押さえ、勤務先や金融機関などから支払いを受けて回収を図る手続です。申立てだけで自動的に入金される手続ではありません。
差押えに使える書面、未払い額、相手の住所、差し押さえる財産を順に整理してから、申立てへ進みます。
強制執行とは、給与や預貯金から養育費の回収を図る手続
給与を差し押さえる場合は相手の勤務先、預貯金を差し押さえる場合は金融機関が第三債務者になります。
裁判所が債権差押命令を発し、その命令が第三債務者へ送達されると、差押えの効力が生じます。その後、決められた時期に勤務先や金融機関から支払いを受ける手続へ進みます。
ただし、相手に差し押さえられる給与・預貯金がなければ、申立てをしても未払い分の全額を回収できないことがあります。
差押えの前に、書面・未払い額・相手の住所・対象財産を整理する
債務名義に基づく強制執行を申し立てるときは、次の内容を一つずつ整理します。
| 整理する内容 |
見る資料 |
整理する理由 |
| 養育費を決めた書面 |
調停調書、審判書、公正証書、判決書など |
差押えに使う書面と、追加で必要な証明書が分かります |
| 未払いになった月と金額 |
通帳、振込明細、相手からの支払記録 |
請求債権目録へ記載する未払い額を計算します |
| 相手の現在の住所 |
住民票、戸籍の附票など |
原則として申立先は相手の住所地を管轄する地方裁判所です |
| 差し押さえる財産 |
勤務先、金融機関名・支店名など |
差押債権目録へ第三債務者と対象財産を記載します |
相手の勤務先や口座が分からない場合は、先に財産を調べる手続が必要になることがあります。財産開示や第三者からの情報取得の詳しい要件は、強制執行の申立てとは分けて考えます。
2026年4月1日以後に発生する養育費は、債務名義がない場合でも、父母間の合意書面や法定養育費を根拠に担保権実行として差押えを申し立てられる場合があります。離婚日、養育費が発生した時期、手元の書面により利用できる手続が異なります。
書面によって正本・執行文・確定証明書の要否が異なる
債務名義は名称だけでなく、正本かどうかと、執行文・確定証明書・送達証明書の要否まで見ます。
| 養育費を決めた書面 |
強制執行で主に用意するもの |
| 家事調停調書 |
調停調書正本、送達証明書。養育費のみを請求するときは通常、執行文は不要です |
| 家事審判書 |
審判書正本、確定証明書、送達証明書。養育費のみを請求するときは通常、執行文は不要です |
| 公正証書 |
強制執行認諾文言のある公正証書正本、執行文、送達証明書 |
| 判決書・和解調書など |
書面の種類に応じて、正本、執行文、確定証明書、送達証明書が必要になります |
債務名義に記載された住所・氏名と現在の住所・氏名が異なるときは、住民票、戸籍謄本、戸籍の附票など、変更のつながりを示す公文書も必要です。
申立てに必要な書類は債務名義と請求内容によって変わるため、取得先となる家庭裁判所・公証役場と、申立先の地方裁判所の案内に合わせてそろえます。
地方裁判所への申立てから差押え・取立てまでの流れ
債務名義に基づいて給与や預貯金を差し押さえる場合の基本的な流れは、次のとおりです。
| 段階 |
手続の内容 |
申立人が行うこと |
| 申立書類を作る |
申立書、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録を作成します |
未払い額、相手、第三債務者、対象財産を正確に記載します |
| 地方裁判所へ申し立てる |
原則として相手の住所地を管轄する地方裁判所へ提出します |
債務名義等の必要書類、原則4,000円の手数料、裁判所ごとの郵便料を納めます |
| 債権差押命令が送達される |
裁判所が要件を満たすと判断すると、相手と第三債務者へ差押命令を送達します |
補正や追加書類を求められた場合は対応します |
| 第三債務者から取り立てる |
相手へ差押命令が送達された日から1週間が経過すると、取立てへ進めます |
勤務先・金融機関等へ連絡し、支払方法を調整します |
| 取立届を提出する |
第三債務者から支払いを受けた内容を裁判所へ届けます |
一部を受け取ったときは取立届、全額を受け取ったときは取立完了届を提出します |
第三債務者が差押金を供託した場合は、直接取り立てるのではなく、裁判所の配当等の案内に従います。
給与と預貯金では差押え後の扱いが異なる
給与と預貯金は、第三債務者、差押えの対象、将来分の扱いが異なります。
| 比べる点 |
給与を差し押さえる場合 |
預貯金を差し押さえる場合 |
| 第三債務者 |
相手の勤務先 |
口座のある金融機関 |
| 差押えの対象 |
税金等を除いた手取額の2分の1が原則的な上限です |
差押命令が金融機関へ送達された時点の預貯金が対象になります |
| 将来分 |
既に未払いがあれば、期限前の養育費も継続的な給与から差し押さえられる場合があります |
原則として、既に支払期日を過ぎた未払い分が対象です |
| 回収が続く条件 |
雇用と給与の支払いが続くことが前提です |
差押時点の残高が未払い額に満たないことがあります |
給与の差押えは、相手の手取額の全額を差し押さえる手続ではありません。勤務先の変更や退職があれば、同じ勤務先からの回収は続きません。
預貯金の差押えは、口座の残高や支店の特定が回収額に影響します。差押時点の残高が未払い分に足りないこともあります。
申立て後も、取立てと裁判所への届出が必要になる
裁判所は債権差押命令を発しますが、勤務先や金融機関からの支払いを申立人の口座へ自動的に振り替えるわけではありません。
差押命令が相手へ送達された日から1週間が経過した後、第三債務者へ連絡して支払いを受け、受取額を裁判所へ届けます。
差し押さえた財産が存在しない、残高が少ない、相手が退職しているなどの事情があれば、回収できる金額は変わります。差押命令と実際の回収は分けて考える必要があります。
まとめ:差押えに使う書面と対象財産を先に整理する
養育費の強制執行は、相手の給与や預貯金などを差し押さえ、第三債務者から支払いを受けて回収を図る手続です。
最初に整理するのは、養育費を決めた書面、未払い月と合計額、相手の住所、差し押さえる財産です。書面に応じて正本・執行文・確定証明書・送達証明書をそろえ、原則として相手の住所地を管轄する地方裁判所へ申し立てます。
申立て後は、第三債務者への送達で差押えの効力が生じ、相手への送達後1週間を経て取立てへ進みます。支払いを受けた後は、取立届または取立完了届を裁判所へ提出します。