未払い養育費を強制執行で差押えるまでの流れ

弁護士
木村 和弘
未払いの養育費を強制執行で回収したいと考えていても、「何から始めればよいのか」「どのような書類が必要なのか」「書類はどこで取得するのか」「差押えまでにどれくらい時間がかかるのか」「裁判所ではどのような手続を行うのか」など、分からないことや疑問に思うことが多いと思います。
強制執行を行うためには、必要な書類をそろえ、未払いになっている養育費の金額や、相手の勤務先・金融機関など、差し押さえる財産の情報を確認しておく必要があります。
強制執行を行う前に、債務名義があるかを確認する必要があります
未払いの養育費を強制執行で回収したいと思っても、何もない状態ですぐに給与や預貯金を差し押さえられるわけではありません。
強制執行を行うためには、養育費について取り決めた内容を示す「債務名義」が必要です。
まずは、手元に強制執行に使える債務名義があるかを確認してください。
養育費の強制執行に使える主な債務名義には、次のものがあります。
- 家庭裁判所で作成された調停調書
- 家庭裁判所が出した審判書
- 裁判所が出した判決書
- 強制執行認諾文言付きの公正証書
調停調書や審判書は、家庭裁判所で養育費を決めた場合に作られる書面です。公正証書は、相手との話し合いで養育費を決め、公証役場で作成した書面です。
公正証書を持っている場合でも、強制執行に使うには「強制執行を認諾する」内容の文言が入っている必要があります。
手元に債務名義がない場合は、まずは債務名義を取得することから始める必要があります。
## 裁判所に強制執行を申し立ててから、養育費を差押えで回収するまでの流れ
強制執行に使える債務名義があることを確認できたら、未払いの養育費を回収するため、裁判所へ強制執行を申し立てることになります。
ここでは、実際に裁判所へ強制執行を申し立てた後、どのような手続きを経て、未払いの養育費を回収できるようになるのかまでの流れを、順番に説明していきます。
強制執行を申し立てた後、差押えができ、未払いの養育費を回収できるようになるまでの流れをあらかじめ知っておくと、実際にどのように手続きが進むのかを具体的にイメージしやすくなると思います。
1地方裁判所へ債権差押命令を申し立てます

債務名義があることを確認し、必要な書類をそろえたら、相手の住所地を管轄する地方裁判所へ、債権差押命令を申し立てます。
強制執行の申し立てを行う際に重要なのは、相手の給与を差し押さえるのか、預貯金を差し押さえるのかを決め、差し押さえる財産を申立書に正確に記載することです。
相手の給与を差し押さえる場合は勤務先の会社名や所在地を、預貯金を差し押さえる場合は金融機関名や支店名などを申立書に記載します。
強制執行を申し立てるためには、債権差押命令申立書のほか、債務名義の正本と送達証明書など、必要な書類をそろえる必要があります。未払いになっている養育費の金額は「請求債権目録」に、差し押さえる給与や預貯金の内容は「差押債権目録」に記載します。相手の給与を差し押さえる場合で、勤務先が会社であれば、その会社の資格証明書も必要です。
申立てには、手数料として原則4,000円と、裁判所から書類を送るための郵便料がかかります。また、書類の不足や記載の誤りがあると、差押命令が出るまでに時間がかかるため、提出前に必要書類と記載内容を確認しておくことが大切です。
2差押命令が勤務先または金融機関へ届き、差押えの効力が生じます

裁判所で債権命令を申し立てると、裁判所で申立書と必要書類が確認され、問題がなければ、裁判所から差押命令が出されます。
裁判所から差押命令が出ると、給与を差押える場合は相手の勤務先へ、預貯金を差押える場合は金融機関へ、命令書が送られます。
給与を差押える場合は、勤務先が相手に支払う給与のうち、命令書に記載された金額の範囲が差押えの対象になります。預貯金を差押える場合は、金融機関に命令書が届いた時点の口座残高のうち、命令書に記載された金額の範囲が差押えの対象になります。
差押命令が勤務先や金融機関に届くまでの目安は、書類に不備や記載の誤りがなければ、申立てからおおむね1〜2週間程度です。裁判所での書類確認や郵送の状況によって前後し、書類に不足や記載の誤りがある場合は、訂正や追加書類の提出が必要になり、その分時間がかかります。
勤務先または金融機関に裁判所からの差押命令が届くと、その時点で差押えの効力が生じます。
3相手本人に命令が届いてから1週間後、差押えた給与・預貯金を受け取れます

相手本人に差押命令が届いた日から1週間が経過すると、差押えた給与や預貯金について、勤務先または金融機関へ支払いを求めることができるようになります。
これは、民事執行法で、相手本人に差押命令が届いてから1週間が過ぎるまでは、勤務先や金融機関へ支払いを求めることができないと定められているためです。
ここで注意しておきたいのは、1週間が経過して受け取ることができるようになっても、裁判所から自動的に養育費が振り込まれるわけではないことです。
裁判所から届く送達通知書で、相手本人に差押命令が届いた日を確認したうえで、給与を差押えた場合は相手の勤務先へ、預貯金を差押えた場合は金融機関へ、支払いを求める必要があります。
その後、勤務先または金融機関から、差押命令に記載された範囲の給与や預貯金が、申立てをした人が指定した口座へ振り込まれ、養育費を受け取る流れになります。
4強制執行で養育費を回収した後は、裁判所への届出が必要です

強制執行で勤務先や金融機関から養育費を差し押さえて回収できたとしても、手続きがそこで終わるわけではありません。
回収できた金額については、裁判所へ届出を行う必要があります。
届出が必要なのは、裁判所に「差押えによっていくら回収できたのか」「未払いの養育費があといくら残っているのか」を知らせ、手続の状況を正しく確認してもらうためです。
給与を差し押さえた場合には、勤務先から毎月、養育費の支払いを受けることがあります。そのため、届出も最初の1回で終わるのではなく、支払いを受けるたびに回収した金額を裁判所へ届け出る必要があります。
強制執行をすれば、未払い養育費は必ず回収できる?
強制執行を申し立てれば、未払いになっている養育費を必ず回収できると思っている方もいると思います。
しかし、実際には、相手の勤務先や預貯金の状況によっては、十分に回収できないことがあります。
また、強制執行を進めるには、裁判所への申立てに費用がかかり、必要な書類をそろえるための時間や手間も必要になります。
強制執行を申し立てる前には、どのような注意点や負担があるのかを、あらかじめ知っておくことが大切です。
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