養育費のワンストップ執行とは?勤務先の調査から給与差押えまでの流れ・条件を解説

弁護士
木村 和弘
養育費等のワンストップ執行手続は、養育費が未払いになっているものの、相手の現在の勤務先が分からないときに、勤務先を調べる手続と給与差押えを一続きに進めるための制度です。2026年4月1日から利用でき、財産開示又は第三者からの情報取得と、分かった勤務先の給与差押えを、地方裁判所へまとめて申し立てることができます。
たとえば、調停調書や強制執行認諾文言付きの公正証書で養育費を決めているのに、相手が転職し、以前の勤務先しか分からない場合があります。このようなとき、現在の勤務先を確認してから改めて給与差押えを申し立てるのではなく、要件を満たせば、一つの申立てから給与差押えまで進められる可能性があります。
ただし、未払いがあることだけで、すぐに勤務先を調べてもらえる制度ではありません。
手元にある書面、未払いの内容、これまでに財産を調べた経過、過去に財産開示をしたかどうかによって、使える手続とそろえる資料が変わります。
ここでは、ワンストップ執行を利用できるのはどのような場合か、勤務先が分からないときに何から確認するのか、申立て後にどの段階で費用がかかるのか、自分で進める場合にどこでつまずきやすいのかまで、順を追って説明します。

相手の今の勤務先が分かっているかで、利用する手続が異なります
養育費を給与から差し押さえるには、相手が働く会社を、給与を支払う「第三債務者」として申立書で特定する必要があります。そこでまず、相手が今どこで働いているかを把握しているかで、取る手続が変わります。
相手の現在の勤務先の会社名と所在地が分かっている場合は、通常、その会社を第三債務者として給与差押えを申し立てます。
一方、調停調書などの書面はあるものの、相手が転職し、以前の勤務先しか分からない場合は、現在の勤務先を確認する手続が必要になります。たとえば、以前の会社へ給与差押えを申し立てても、相手がすでに退職していれば回収にはつながりません。このようなときに、要件を満たせば、ワンストップ執行を利用して現在の勤務先の確認と給与差押えを一続きに進めます。
ワンストップ執行は、相手の今の勤務先が分からず、給与差押えへ進めないときに使う手続です。
相手が会社員かどうかも分からない、退職している可能性がある、自営業で給与を受け取っていないといった場合は、給与差押えまで進まないことがあります。勤務先を調べる手続を使えば必ず回収できるわけではないことも、先に知っておく必要があります。
養育費のワンストップ執行で、何が一度につながるのか
ワンストップ執行が始まる前は、相手の勤務先を調べるために財産開示や第三者からの情報取得を申し立て、勤務先が分かった後に、改めて給与差押えを申し立てる必要がありました。
ワンストップ執行では、勤務先を調べる手続と、判明した勤務先の給与を差し押さえる手続を、地方裁判所へまとめて申し立てます。申立書で給与差押えを希望しない旨を示さなければ、勤務先と差し押さえる給与を特定できた後の給与差押命令も申し立てたものとして扱われます。
たとえば、財産開示期日で相手が現在の勤務先を答えた場合や、市区町村などからの情報提供で勤務先が分かった場合、そこで新しい申立書を一から出し直すのではなく、裁判所から求められた追加資料と手数料に対応して給与差押命令の手続へ進みます。
ワンストップ執行を申し立てるときに、まず確認する養育費の書面
養育費等のワンストップ執行を申し立てるには、養育費の支払いを求める根拠となる書面が手元にあるかを確認します。離婚調停で決めた場合は調停調書、審判で決まった場合は審判書、裁判で決まった場合は判決書や和解調書、公正証書で決めた場合は強制執行認諾文言のある公正証書が、強制執行の根拠となる「債務名義」に当たります。
ただし、養育費を公正証書で取り決めていても、強制執行認諾文言がなければ、その公正証書だけで給与差押えに進めることはできません。また、調停調書などの債務名義が手元にあっても、申立てでは正本・送達証明書などを改めて取り寄せる必要がある場合があります。
債務名義については、次の記事で詳しく解説しています。調停調書・公正証書などのうち、手元の書面が強制執行に使えるかを、申立書を作る前に確認してみてください。
父母で作った合意書しかない場合でも、先取特権を根拠に利用できる場合があります。また、養育費を取り決めないまま離婚した場合には、法定養育費を根拠にできる場合があります。ただし、離婚時期、支払期限、合意書の内容などで条件が異なるため、合意書があるという事情だけで利用できるかを決めることはできません。
書面とあわせて、未払いになった月、各月の金額、実際に振り込まれた金額、残っている金額を通帳や振込履歴と照らし合わせます。申立書では、何月分の養育費をいくら請求するのかを具体的に記載するためです。
なぜ、相手の勤務先が分からないだけでは申し立てられないのか
ワンストップ執行は、裁判所が相手の財産や勤務先を無条件に調べる制度ではありません。財産開示や第三者からの情報取得を始めるためには、原則として、すでに差押えをしても未払い分を全額受け取れなかったこと、又は通常行うべき財産調査をしたうえで、分かる財産だけでは全額を回収できないことを資料で示す必要があります。
たとえば、相手名義の預金口座を差し押さえたものの残高が少なく、未払い分が残った場合は、配当表や弁済金交付計算書などが資料になります。一方、口座も勤務先も分からず差押えに進めなかった場合は、どのような情報を調べたのか、なぜ差し押さえる財産を特定できなかったのかを、財産調査結果報告書と裏付け資料で示します。
まずは、未払いがいつから続いているのか、相手の住所・以前の勤務先・口座として何が分かっているのか、これまでどの財産を調べ、どの差押えをしたのかを、時系列で書き出します。この順番で整理すると、申立てに必要な資料と、すでに行った手続の記録のうち何が不足しているのかが分かります。

ワンストップ執行の申立てでは、財産開示から始めるか、第三者から勤務先を調べるかを最初に選びます
ワンストップ執行を申し立てるときは、勤務先を確認する手続として、財産開示と第三者からの情報取得のどちらから始めるかを申立書で選びます。自分で好きな方を選ぶものではなく、相手について、申立て前3年以内に財産開示期日が実施されているかで、最初に使う手続が変わります。
過去3年以内に財産開示期日が実施されていない場合
この場合は、原則として財産開示から始めます。裁判所が相手に財産目録の提出を命じ、財産開示期日を指定します。期日では、相手に財産について説明を求めることがあり、勤務先と給与を特定できれば、給与差押命令の手続へ進むことができます。
たとえば、相手が現在の会社名と所在地を答え、給与を受け取っていることが確認できれば、その会社を第三債務者として給与を差し押さえる手続を進めます。相手が財産を開示しなかった場合でも、条件を満たせば、勤務先情報を取得する手続へ進むことがあります。
過去3年以内に財産開示期日が実施されている場合
すでに財産開示期日が実施されている場合は、第三者から給与に関する情報を取得する手続から始めます。裁判所が、申立書に記載した市区町村、日本年金機構、共済組合などに情報提供を命じ、相手の勤務先と給与に関する情報を得る方法です。
たとえば、前回の財産開示期日から2年しか経っていない場合は、そのときの期日が実施されていることを示す資料を使い、第三者からの情報取得を検討します。市区町村を指定する場合は、原則として、その年の1月1日時点で相手が住んでいた市区町村を申立書に記載します。直近に転居しているときは、申立先や第三者の指定を慎重に確認する必要があります。
ワンストップ執行を自分で申し立てる場合の進め方
養育費等のワンストップ執行は、自分で申し立てることができます。自分で申し立てる場合は、申立先の裁判所、最初に使う手続、養育費を請求する根拠を、この順に確認してください。
まず、相手の現在の住所地から、管轄する地方裁判所の本庁又は支部を確認します。養育費を決めた家庭裁判所や、自分の住所地の裁判所が申立先になるとは限りません。
次に、財産開示から始めるのか、第三者からの情報取得から始めるのかを決めます。そのうえで、債務名義、合意書に基づく先取特権、法定養育費のどれを根拠にするかに合った一括申立書を選びます。根拠と手続の組合せを間違えると、申立書や添付資料を作り直すことになります。
裁判所の一括書式には、申立書だけでなく、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録などがあります。請求債権目録には未払い月と金額を、差押債権目録には勤務先が分かった場合に差し押さえる給与を記載します。債務名義を使う場合は、正本、送達証明書、書面によっては執行文や確定証明書が必要です。法定養育費を根拠にする場合は、申立人と子どもの戸籍謄本や、子どもを含む世帯全員の住民票の写しなどを用意します。
ワンストップ執行で使う一括申立書は、裁判所の公式サイトからダウンロードできます。債務名義・先取特権・法定養育費のどれを根拠にするか、財産開示と第三者からの情報取得のどちらから始めるかで、ダウンロードする書式が違います。申立書を書き始める前に、次の裁判所公式サイトで自分に当てはまる書式を開いて確認してください。
自分で進める場合でも、裁判所は個別の事情に合う手続の選び方や、未払い額の計算方法まで決めてくれるわけではありません。資料の組合せや根拠書面に迷う場合は、提出前に弁護士へご相談ください。
養育費のワンストップ執行にかかる費用はいくらなのか
ワンストップ執行では、最初に選ぶ手続と、その後に給与差押命令へ進むかによって、裁判所に納める手数料が変わります。財産開示から始める場合の手数料は原則2,000円、第三者からの情報取得から始める場合は原則1,000円です。
勤務先と給与を特定でき、給与差押命令の手続へ進む段階では、原則4,000円の手数料が必要になります。このほか、郵便料、住民票・戸籍などの証明書の取得費用がかかります。郵便料や必要部数は裁判所ごとに異なるため、提出先の最新案内を確認します。
申立先、手数料、提出書類の最新情報は、裁判所の公式サイトで確認できます。提出する前に、次の裁判所公式サイトで、自分が選ぶ手続の申立先・費用・必要書類を確認してください。
弁護士へ依頼する場合は、裁判所に納める手数料とは別に弁護士費用がかかります。一方で、自分で申立てる場合でも、書類が足りないと補正や追加提出が必要になり、勤務先が分かった後に対応期限を逃せば給与差押えへ進めません。費用だけではなく、資料の準備と期限への対応まで含めて進め方を考えることが大切です。
申立て後、勤務先の調査から給与差押えに進むまでの流れ
ワンストップ執行の申立書を地方裁判所へ提出した後、裁判所は、最初に選んだ手続である財産開示又は第三者からの情報取得について、申立書と添付資料を確認します。財産開示から始める申立てでは、相手への送達と決定の確定後に財産開示期日が指定されます。第三者からの情報取得から始める申立てでは、情報提供命令が相手と申立人に送達された後、裁判所から市区町村などへ命令が送られます。
たとえば、第三者からの情報取得で勤務先が分かったとしても、その日のうちに勤務先から養育費が振り込まれるわけではありません。裁判所から、勤務先や給与を特定するための追加資料、給与差押命令の手数料を求められることがあります。期限までに対応しなければ、給与差押命令の申立ては取り下げたものとして扱われます。
勤務先と差し押さえる給与を特定できれば、裁判所が差押命令を出せるかを審理します。命令が出ると、相手と勤務先に送達され、勤務先に届いた時点で差押えの効力が生じます。勤務先は差押命令を受け取るため、手続を知ることになります。
差押命令が相手に送達された日から1週間が過ぎると、勤務先から養育費を取り立てることができます。
養育費の給与差押えでは、税金や社会保険料を差し引いた手取額の2分の1までが原則として対象です。勤務先から支払いを受けたときは、裁判所へ取立(完了)届を提出します。

ワンストップ執行を使っても、給与差押えまで進まない場合があります
この手続を使っても、相手が退職している、働いていない、情報提供先が勤務先情報を保有していない、得られた情報だけでは給与を特定できない、といった場合は、給与差押命令まで進まないことがあります。
また、相手が自営業で給与を受け取っていない場合や、相手の主な財産が預金・不動産である場合も、給与を対象にしたワンストップ執行だけで解決するものではありません。勤務先が分かったとしても、未払い額、現在の給与の状況、ほかの差押えの有無などによって、受け取れる金額と回収までの期間は変わります。
手続を始める前には、「給与を差し押さえたいのか」「まず現在の勤務先を知りたいのか」「ほかに分かっている口座や財産があるのか」を分けて考えます。未払いの回収方法は一つではないため、ワンストップ執行だけに決めつけず、今ある情報に合う手続を選ぶことが必要です。
ワンストップ執行を申し立てる前に準備する書類・資料
ワンストップ執行で必要になる書類は、財産開示と第三者からの情報取得のどちらから始めるか、債務名義・先取特権・法定養育費のどれを根拠にするかで異なります。そのため、申立書だけを先に書くのではなく、まず次の書類・資料が手元にあるかを確認してください。
- 養育費を決めた調停調書・審判書・判決書・公正証書・合意書
- 未払い月、各月の金額、入金額、残額が分かる通帳・振込履歴
- これまでに行った財産調査や差押えの資料
- 過去の財産開示の実施証明書・期日調書の写し
- 相手の現在又は以前の住所、以前の勤務先、分かっている口座などの資料
たとえば、調停調書がある場合はその正本や送達証明書、法定養育費を根拠にする場合は戸籍謄本や住民票の写しなど、選んだ手続に応じた添付書類を追加します。必要な書類を一度にそろえようとするのではなく、まず根拠書面と未払いの記録を確認し、その後に裁判所の書式で不足する資料を確かめると進めやすくなります。
養育費等のワンストップ執行手続を利用できるか、手元の書面で足りるか、どの申立書を選ぶかで迷うときは、資料をそろえきれていない段階でも弁護士へ相談できます。
養育費のワンストップ執行について、弁護士に無料で相談できます
自分が養育費等のワンストップ執行を利用できるのか、どの手続から始めればよいのか、手元の書面や資料で足りるのか分からないときは、弁護士に無料で相談できます。
養育費を決めた書面、未払いになった月と入金記録、過去の差押えや財産開示に関する資料があれば、どの手続から始めるか、どの書式を選ぶかを状況に合わせてご説明できます。資料がそろっていない場合も、LINEで分かる範囲からお聞かせください。
相談料0円|LINEで弁護士に無料相談相談料は何度でも無料です
養育費のワンストップ執行に関するよくある質問
相手から一部だけ入金があったり、今後は払うと言われた時は、手続は取り下げられますか?
一部入金があった場合は、未払い月・金額・入金日を改めて整理し、残っている請求額を確認します。財産開示手続で相手が財産目録を提出した後は、相手の同意がなければ、その財産開示事件を取り下げられません。相手が今後の支払いを約束しているだけの場合も、いつ・いくらを受け取ったかを記録し、取下げや差押えの扱いは手続がどの段階にあるかに応じて裁判所へ確認してください。
第三者から勤務先の情報を取得すると、どこまで分かりますか?
第三者からの情報取得では、市区町村や日本年金機構、共済組合などが保有する給与に関する情報を基に、勤務先を特定できる場合があります。ただし、すべての勤務先や収入の履歴が自動的に分かる制度ではありません。市区町村から情報を得る場合は、原則として相手が1月1日に住んでいた市区町村を申立書に記載します。年の途中に転居しているときは、前年の住所地も確認が必要になることがあります。
調停調書や公正証書に書かれた氏名・住所が今と違うときは、申し立てられませんか?
申し立てること自体は可能ですが、書面に記載された氏名・住所から現在の氏名・住所までのつながりを公的な書類で示す必要があります。たとえば、離婚後に氏名が変わっているときは戸籍謄本、転居しているときは住民票や戸籍の附票などを添付します。手元の調停調書や公正証書と現在の情報が違う場合は、申立書を作る前に、何の書類でつながりを示せるかを確認してください。
養育費のほかに、慰謝料や解決金も未払いの場合は同じように申し立てられますか?
養育費だけを対象にする場合と、慰謝料・解決金なども一緒に回収しようとする場合では、必要な書面や利用する手続が異なります。たとえば、家事調停調書で養育費だけを請求する場合は執行文が不要でも、解決金や慰謝料分も合わせて請求するときは執行文が必要になることがあります。未払いの内訳を、養育費・慰謝料・解決金に分けて書き出してから、どの部分をどの手続で請求するかを確認してください。
勤務先が裁判所へお金を供託した場合は、どうやって受け取りますか?
給与差押えでは、通常、差押命令が相手に送達された日から1週間が過ぎると、勤務先から直接取り立てることができます。ただし、勤務先が差押えの対象となった給与を供託した場合は、勤務先から直接受け取ることはできません。裁判所が配当などの手続を行うため、その案内に従って受け取ることになります。