「財産開示を申し立てれば、相手の勤務先や預貯金がすべて分かるのでしょうか」
差押えを考えていても、相手がどこで働いているのか、どの銀行に口座を持っているのか分からないことがあります。手元にある情報だけでは、どの財産を差し押さえればよいか決められず、次へ進みにくい状況です。
財産開示手続は、相手本人に裁判所へ出頭してもらい、財産目録を提出し、財産の状況を陳述してもらう手続です。
ただし、裁判所が銀行や勤務先を一括して調べる手続ではありません。財産開示で分かった財産へ差押えの効力が生じるわけでもなく、回収には原則として別に強制執行を申し立てます。
財産開示と第三者からの情報取得は別の手続です
相手の財産を調べる裁判所の手続には、財産開示のほかに「第三者からの情報取得手続」があります。誰から情報を得るのか、調べられる内容、申立て後の動きが異なります。
| 手続 |
誰から情報を得るか |
主に分かる内容 |
| 財産開示手続 |
相手本人 |
相手が財産目録へ記載し、期日で陳述した財産の状況 |
| 第三者からの情報取得手続 |
金融機関、市区町村・日本年金機構等、登記所等 |
預貯金、勤務先、不動産、株式等のうち、申し立てた種類の情報 |
第三者からの情報取得は、相手本人の陳述ではなく、対象となる機関から情報提供を受ける手続です。財産の種類ごとに申立てが分かれ、利用条件も同じではありません。
財産開示を申し立てられる条件
債務名義に基づいて財産開示を申し立てる場合は、執行力のある債務名義を持ち、相手への送達や支払期限の到来等、強制執行を始められる条件を備えている必要があります。
それに加えて、次のいずれかを資料で示します。
| 利用条件 |
何を示すか |
| 直近の強制執行等で全額の支払いを受けられなかった |
配当表、弁済金交付計算書、差押命令等から、未回収額が残ったことを示す |
| 分かっている財産だけでは全額を回収できない見込みがある |
通常行うべき調査の結果と、判明した財産では足りない事情を財産調査結果報告書等で示す |
「勤務先も口座も分からない」と書くだけで利用条件を満たすわけではありません。どこまで調べ、何が分からなかったのかを資料に沿って説明します。
2026年4月1日以後に発生する養育費については、一般の先取特権を根拠に財産開示を申し立てられる場合もあります。先取特権の存在を証明する書面の適否は事案ごとの判断となるため、手元の合意書面と養育費が発生した時期を分けて考えます。
申立て前にそろえる書類と情報
申立先は、原則として相手の現在の住所地を管轄する地方裁判所です。申立手数料は1件2,000円で、別に裁判所ごとに異なる郵便料が必要です。
債務名義の種類や、紙・電子の別、当事者の氏名・住所の変更により必要書類は変わります。まずは、次の内容を一つずつそろえます。
| 用意するもの |
内容 |
| 申立書類 |
申立書、当事者目録、請求債権目録、財産調査結果報告書等 |
| 養育費を決めた公の書面 |
債務名義の正本または事件を特定する情報。書面の種類により執行文・確定証明書・送達証明書等も用意する |
| 未払い額の内訳 |
支払期日、入金履歴、未払いとなった月、月ごとの未払い額、合計額 |
| 相手の本人情報 |
現在の住所・氏名。債務名義の記載と異なる場合は、つながりを示す住民票や戸籍関係書類等 |
| これまでの財産調査 |
勤務先、預貯金、不動産等をどのように調べ、何が分かったかを示す資料 |
提出書類と郵便料の運用は地方裁判所ごとに異なることがあります。申立先の地方裁判所が案内する最新の書式と必要部数を見ながら準備します。
財産開示の申立てから期日後までの流れ
申立て後は、裁判所が利用条件と提出資料を審査します。期日の回数や指定される日までは事件によって異なるため、固定的な期間を前提にしない方が安全です。
| 段階 |
主な内容 |
| 申立て |
相手の住所地を管轄する地方裁判所へ申立書と必要書類を提出する |
| 実施決定 |
裁判所が申立てに理由があると判断すると実施決定をし、相手へ送達する |
| 決定の確定 |
相手への送達から1週間が経過すると実施決定が確定する |
| 財産目録と期日の指定 |
裁判所が財産目録の提出期限と財産開示期日を指定する |
| 財産開示期日 |
相手が財産状況を陳述する。申立人または代理人弁護士は、裁判所の許可を得て質問できる |
| 期日後 |
分かった財産を検討し、必要に応じて別途、差押え等を申し立てる |
期日で質問できる内容は、養育費を回収するために必要な財産情報に関係するものです。根拠のない探索的な質問や、相手を困惑させるための質問は認められません。
相手が出頭しない場合や虚偽の説明をした場合
相手が正当な理由なく財産開示期日に出頭しないと、財産開示手続は原則として終了します。欠席したからといって、裁判所が代わりに勤務先や口座を調べてくれるわけではありません。
正当な理由なく出頭しない、宣誓を拒む、陳述しない、虚偽の陳述をする行為は、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となり得ます。
これは刑事罰の定めであり、欠席や虚偽の説明があれば直ちに逮捕・起訴されるという意味ではありません。養育費の回収も別の問題です。手続が終了した場合は、第三者からの情報取得等を利用できるか、別に検討します。
第三者から情報を得る場合は対象財産を選びます
第三者からの情報取得手続では、預貯金、勤務先、不動産、株式等のうち、必要な情報の種類を選んで申し立てます。
勤務先情報と不動産情報の取得には、原則として相手について3年以内に財産開示期日が実施されていることが必要です。預貯金情報は、情報を求める金融機関を債権者側で特定して申し立てます。
どの手続が合うかは、探したい財産と既に持っている情報によって変わります。相手本人から財産全体の状況を聞きたいのか、候補となる金融機関等から特定の情報を得たいのかを分けて考えます。
2026年4月以後は給与差押えとの一体申立てもあります
2026年4月から、養育費等の定期金債権について、財産開示または勤務先情報の取得と、判明した給与の差押えを1回の申立てで扱うワンストップ執行手続が始まっています。
この手続を使うには、養育費の支払い状況、手元の書面、利用条件を満たす資料を整理する必要があります。預貯金や不動産の差押えまで一括して行う制度ではないため、差し押さえたい財産を先に分けて考えます。
財産開示の後に差押えを申し立てるかを判断します
財産開示は、相手本人から財産状況の情報を得る手続です。通常は、分かった財産に応じて給与・預貯金等の差押えを別に申し立てます。
まずは、養育費を決めた書面、未払い額、相手の住所、これまでに調べた財産情報を並べてください。そのうえで、財産開示と第三者からの情報取得のどちらが利用できるか、差押えまで一体で申し立てられるかを整理すると、必要な手続を選びやすくなります。