「離婚協議書やLINEで養育費を決めていれば、債務名義があることになるのでしょうか」
債務名義は、普段あまり使わない法律用語です。手元に書面があっても、その書面が債務名義に当たるかは、名称だけでは判断できません。
債務名義は、強制執行の根拠になる公の文書です。養育費を支払う人と受け取る人、支払義務の内容や範囲が書かれています。
離婚協議書やLINEのやり取りは、父母が合意した内容を示す資料にはなります。ただし、通常はそれだけで「債務名義に基づく強制執行」ができる書面になるわけではありません。
まずは、手元の書面の名前と、裁判所・公証役場のどちらが作成したものかを見ていきましょう。
債務名義とは、強制執行の根拠になる公の文書です
債務名義には、強制執行によって実現する請求権の存在と範囲、支払いを受ける人、支払う人が記載されています。
養育費が未払いになったとき、裁判所へ債権差押命令を申し立てるには、原則として執行力のある債務名義の正本が必要です。コピーや謄本ではなく、作成した裁判所または公証役場から交付された正本を使います。
債務名義があっても、相手に財産があることや、その財産を特定できることまで保証する書面ではありません。強制執行で回収できる金額は、給与や預貯金など差し押さえる財産の状況にも左右されます。
養育費で使われる主な債務名義と取得方法
養育費の債務名義は、家庭裁判所の手続、公証役場での公正証書作成、離婚訴訟の判決・和解などを通じて取得します。
次の表では、書面の種類ごとに、どの場面で作られるかと、どこから正本を受け取るかを整理しています。
| 書面 |
どの場面で作られるか |
正本の取得先 |
| 家事調停調書 |
養育費請求調停や離婚調停で合意が成立したとき |
調停を行った家庭裁判所 |
| 家事審判書 |
裁判官が養育費について審判をしたとき |
審判をした家庭裁判所 |
| 強制執行認諾文言のある公正証書 |
父母が合意し、公証役場で金銭の支払いと強制執行を受け入れる旨を公正証書にしたとき |
公正証書を作成した公証役場 |
| 判決書・和解調書など |
離婚訴訟で養育費の判決が出たとき、または裁判上の和解が成立したとき |
判決・和解をした裁判所 |
家事調停調書は調停成立時に作られます
養育費請求調停や離婚調停で合意が成立すると、家庭裁判所が調停調書を作成します。
養育費だけを強制執行する場合、通常は執行文がなくても申し立てられます。ただし、慰謝料や解決金なども一緒に請求するときは、執行文が必要になる場合があります。
家事審判書は審判の確定後に使います
養育費について審判がされると、家庭裁判所から審判書が告知されます。
養育費だけを強制執行する場合、通常は執行文は不要ですが、審判が確定したことを示す確定証明書が必要です。
公正証書は強制執行認諾文言の有無を見ます
養育費について公正証書を作っていても、公正証書という名称だけで判断することはできません。
債務名義として強制執行に使うには、金銭の支払いについて、支払いをしないときは直ちに強制執行に服する旨の記載が必要です。公正証書正本のほか、通常は公証役場で執行文と送達証明書を取得します。
判決書・和解調書などは作成した裁判所へ尋ねます
離婚訴訟で養育費が判決や裁判上の和解に含まれている場合、判決書や和解調書などが債務名義になります。
執行文や確定証明書など、差押えに必要な追加書類は書面の種類と内容で異なります。作成した裁判所へ、養育費の強制執行に使うことを伝えて必要書類を尋ねると整理しやすくなります。
差押えの前に、正本と証明書をそろえます
債務名義の名前が分かったら、差押えに必要な正本と証明書がそろっているかを見ます。
次の表は、養育費だけを強制執行する場合の一般的な整理です。慰謝料、解決金、財産分与なども同時に請求するときは、執行文の要否が変わることがあります。
| 手元の書面 |
正本 |
執行文 |
確定証明書 |
送達証明書 |
| 家事調停調書 |
必要 |
養育費だけなら通常不要 |
通常不要 |
必要 |
| 家事審判書 |
必要 |
養育費だけなら通常不要 |
必要 |
必要 |
| 強制執行認諾文言のある公正証書 |
必要 |
必要 |
不要 |
必要 |
| 判決書・和解調書など |
必要 |
書面に応じて必要 |
書面に応じて必要 |
必要 |
送達証明書は、債務名義の正本または謄本が相手に送達されたことを示す書類です。債務名義を作成した裁判所または公証役場へ申請します。
書面を作った後に住所や氏名が変わっている場合は、現在までのつながりを示す住民票、戸籍謄本、戸籍の附票などが必要になることがあります。
離婚協議書やLINEだけの場合は、離婚日と書面内容で分かれます
離婚協議書、合意書、LINEのやり取りは、父母間の合意を示す資料になり得ます。ただし、通常は裁判所や公証役場が作成した公の文書ではないため、それ自体は債務名義ではありません。
債務名義を取得する方法としては、家庭裁判所の養育費請求調停で取り決めて調停調書にする方法や、父母が合意できる場合に公証役場で強制執行認諾文言のある公正証書を作る方法があります。
一方、2026年4月1日以後に発生する養育費については、父母の合意書面を使った先取特権に基づく差押えや、同日以後に養育費を決めずに離婚した場合の法定養育費に基づく差押えを利用できる場合があります。
これらは債務名義に基づく強制執行とは別の手続です。離婚日、養育費が発生した時期、合意書面の内容により提出書類が変わるため、「債務名義がない」という理由だけで手続が一つに決まるわけではありません。
債務名義を使って強制執行へ進む流れ
債務名義を取得した後は、書面を持っているだけで差押えが始まるわけではありません。
強制執行へ進むときは、次の内容を順に整理します。
| 段階 |
整理すること |
| 債務名義と証明書をそろえる |
債務名義の正本、必要な執行文・確定証明書・送達証明書を取得する |
| 未払い額と当事者情報を整理する |
支払期日を過ぎた月、未払い合計、現在の氏名・住所を資料と照合する |
| 差し押さえる財産を決める |
給与なら勤務先、預貯金なら金融機関など、第三債務者を特定する |
| 地方裁判所へ申し立てる |
原則として相手の住所地を管轄する地方裁判所へ債権差押命令を申し立てる |
| 差押命令後に取り立てる |
差押命令の送達後、勤務先や金融機関から支払いを受け、裁判所へ取立届を出す |
債務名義があっても、相手の住所、未払い額、差し押さえる財産が分からなければ、申立書を完成させることは難しくなります。最初に書面の種類だけでなく、現在の情報まで一緒に整理しておきましょう。
まとめ
債務名義は、養育費の支払義務を強制執行によって実現するための根拠となる公の文書です。
手元の書面が家事調停調書、家事審判書、強制執行認諾文言のある公正証書、判決書・和解調書などのどれに当たるかを見たうえで、正本、執行文、確定証明書、送達証明書の要否を整理します。
弁護士法人ワンピース法律事務所では、未払い養育費についてLINEで相談を受け付けています。手元の書面が債務名義に当たるか分からない場合や、差押えに必要な書類を整理したい場合は、書面の名称と作成した機関が分かる部分からお聞かせください。