「未払いの養育費を預貯金から回収したいけれど、相手の銀行口座が分からない」
預貯金から回収したいと思っても、口座情報が分からなければ、どこへ差押えを申し立てればよいのか迷うものです。
預貯金の差押えには、差押えの根拠となる書面と、金融機関・支店等の口座情報が必要です。口座情報が分かっている場合は差押命令を申し立て、分からない場合は手元の資料または第三者からの情報取得手続で調べます。
口座情報を調べる手続と、実際に預貯金を差し押さえる手続は別です。情報を得ただけでは回収にならず、その後に債権差押命令の申立てが必要です。
預貯金を差し押さえる前にそろえる2つの情報
最初に見るのは、差押えの根拠となる書面と、差押先となる口座の情報です。
| 必要な情報 |
主な内容 |
不足している場合 |
| 差押えの根拠となる書面 |
調停調書、審判書、強制執行認諾文言のある公正証書等 |
養育費請求調停等で債務名義を取得する方法を検討する |
| 差押先となる口座の情報 |
金融機関名、支店名等 |
手元の資料または第三者からの情報取得手続で調べる |
従来の債務名義に基づく差押えでは、書面の種類により、執行文、確定証明書、送達証明書等の要否が異なります。コピーや謄本ではなく、執行力のある正本等が必要になる点にも注意が必要です。
口座情報が分かる場合は差押命令を申し立てる
金融機関名・支店名等、差押先を特定するための情報が分かっている場合は、第三者からの情報取得手続を挟まず、債権差押命令を申し立てる方法があります。
相手が以前使っていた口座でも、現在は解約されていたり、残高がなかったりする場合があります。口座番号等が分かる資料だけでなく、いつ確認した情報かも一緒に整理しておきましょう。
口座情報が分からない場合は手元の資料から探す
婚姻中に使っていた口座、過去の養育費の振込名義、住宅ローンや公共料金の引落口座などが、金融機関を確認する手がかりになることがあります。
通帳、振込明細、ネットバンキングの履歴、離婚時に作成した財産目録等も見てみます。相手名義の口座であることと、金融機関名・支店名等が読み取れるかを分けて見ます。
資料に口座番号が残っていても、現在使われているとは限りません。手元で分かる情報が不足しているときは、第三者からの情報取得手続を検討します。
第三者からの情報取得手続で金融機関へ照会する
一定の要件を満たす場合は、相手の住所地を管轄する地方裁判所へ第三者からの情報取得手続を申し立て、金融機関から相手名義の支店名、口座番号、額等の情報提供を受ける方法があります。
照会を求める銀行・信用金庫等は、申立人が選びます。裁判所が全金融機関を自動的に調査する制度ではありません。複数の金融機関を指定できますが、申立て後に追加できないため、候補を申し立てる前に整理します。
情報取得手続を利用するための条件
執行力のある債務名義に基づいて申し立てる場合は、次のどちらかを資料で示す必要があります。
| 利用条件 |
主な内容 |
| 直近の強制執行等で全額を回収できなかった |
申立て前6か月以内の配当表、弁済金交付計算書等で示す |
| 通常行うべき財産調査をしても全額回収できない見込み |
財産調査結果報告書と調査資料で示す |
申立手数料は1件1,000円です。別に郵便料、裁判所ごとに異なる民事執行予納金、預貯金情報では指定した金融機関1名ごとに2,000円の報酬相当額が必要になります。
情報取得命令が出ると、指定した金融機関が裁判所へ情報を提供し、その写しが申立人へ送られます。その後、一定期間を経て相手にも情報提供があったことが通知されます。通知時期の取扱いは申立先によって異なるため、取得した情報を使う時期も含めて申立先の案内を見ます。
情報取得手続は口座を調べる手続です。預貯金を差し押さえ、回収するには別に債権差押命令を申し立てます。
預貯金差押えの申立先・費用・書類
債権差押命令は、原則として相手の住所地を管轄する地方裁判所へ申し立てます。申立手数料は原則4,000円で、別に裁判所ごとに異なる郵便料が必要です。
主な書類は次のとおりです。債務名義が電子的に作成されている場合等は取扱いが異なるため、申立先の書式と案内に合わせます。
| 主な書類 |
書かれている内容・役割 |
| 債権差押命令申立書 |
当事者、未払い額、差押先となる金融機関、差し押さえる預貯金等を記載する |
| 執行力のある債務名義の正本等 |
養育費を支払う義務と強制執行できることを示す |
| 執行文・確定証明書・送達証明書 |
書面の種類に応じて必要になる |
| 金融機関の資格証明書 |
金融機関の代表者事項等を示す発行後3か月以内の書類 |
| 住所・氏名の変更をつなぐ資料 |
債務名義の記載と現在の住所・氏名が異なる場合に添付する |
申立書には、既に支払期日を過ぎた養育費の月と金額を整理して記載します。利息・遅延損害金も求める場合は、債務名義の内容と計算期間を分けて整理する必要があります。
差押命令の申立てから銀行での取立てまで
| 手続の場面 | 受取側が行うこと | 裁判所・金融機関の対応 |
| --- | --- |
| 申立て | 申立書、債務名義、必要な証明書、金融機関の資格証明書等を地方裁判所へ提出する | 裁判所が申立書類と要件を審査する |
| 差押命令 | 裁判所からの連絡や補正に対応する | 申立てに理由があると、裁判所が差押命令を発し、金融機関と相手へ送達する |
| 差押えの効力発生 | 金融機関から陳述書が届いた場合は、口座と差押対象額を読む | 差押命令が金融機関へ送達された時に、預貯金債権に差押えの効力が生じる |
| 取立て | 相手へ差押命令が送達された日から1週間経過後、金融機関へ支払方法を連絡する | 金融機関が差押対象額を支払う。供託された場合は裁判所が配当等を行う |
| 取立て後 | 支払いを受けた額を記載した取立届または取立完了届を裁判所へ提出する | 裁判所が回収状況を事件記録へ反映する |
口座があっても残高不足で全額回収できないことがある
預貯金差押えでは、差押命令が金融機関へ送達された時点の預貯金が中心です。その後の入金へ差押えの効力が続くとは限りません。
指定した金融機関・支店に相手名義の口座がない場合や、差押時点の残高が未払い額に満たない場合もあります。情報取得時に残高があっても、差押命令が金融機関へ届く前に残高が変わることもあります。
口座情報が分かっても、未払い分をすべて回収できるとは限りません。複数の金融機関を指定する場合や、別の口座へ改めて差押えを申し立てる場合は、費用と必要書類が増える点も見ておきましょう。
2026年4月以後は債務名義がない場合も手続を選べることがある
2026年4月1日以後に発生する養育費では、子の監護費用に関する一般の先取特権を根拠に、債務名義がなくても預貯金情報取得や預貯金差押えを申し立てられる場合があります。
利用できるかは、離婚日、養育費が発生した時期、父母間の合意書面、請求額等で異なります。債務名義に基づく申立てとは書類も異なるため、手元の書面と対象月を分けて見ます。
まとめ
預貯金の差押えでは、差押えの根拠となる書面と、金融機関・支店等の情報を先に整理します。口座情報が分かっていれば債権差押命令を申し立て、分からなければ手元資料または第三者からの情報取得手続で調べます。
口座情報を得ただけでは回収になりません。差押命令が金融機関へ送達された後、相手への送達から1週間を経て金融機関へ取立てを行い、支払いを受けた後は取立届を裁判所へ提出します。
進め方を判断しにくい場合は、養育費を決めた書面、未払いの月と金額、分かっている金融機関・支店名、過去の振込履歴を整理したうえで、お気軽にご相談ください。