養育費の振込みが止まり、「相手が使っている銀行口座から回収できないだろうか」と調べている方もいると思います。
未払い養育費は、相手名義の銀行口座を差し押さえて回収できます。ただし、銀行へ連絡して口座を止めてもらう手続ではありません。地方裁判所へ申立てを行い、裁判所から銀行へ差押命令を送ってもらいます。
自分で申し立てることもできます。準備に必要なのは、養育費を決めた書面、月ごとの未払い額、相手が利用している銀行名と支店名の3つです。
この3つが分かれば、申立書を作る準備へ進めます。分からないものがあっても、そこで請求できなくなるわけではありません。下の案内から、ご自身の状況に当てはまる箇所を確認してください。
あなたの状況で、最初に確認することが変わります- 調停調書・審判書・公正証書がある
最初に確認すること:書面と証明書をそろえる。強制執行に使う正本、送達証明書、執行文または確定証明書を確認し、未払い額の計算へ進みます。
- 離婚協議書・合意書だけがある
最初に確認すること:2026年4月以後の先取特権を確認する。支払日が2026年4月1日以後か、養育費の金額と支払日が書面で分かるかを確認します。
- 養育費を決めた書面がない
最初に確認すること:先に養育費を決める。話し合えるときは合意を書面に残します。難しいときは養育費請求調停を利用します。
- 銀行名や支店名が分からない
最初に確認すること:口座情報を調べる。過去の振込履歴などを確認し、条件を満たせば第三者からの情報取得手続を使います。
まず、どの書面で養育費を決めたか確認してください
銀行口座の差押えでは、養育費の約束があったことを裁判所へ示します。ここで使える手続は、手元の書面によって変わります。
調停調書・審判書・公正証書がある方
家庭裁判所の調停や審判で養育費を決めた方は、調停調書や審判書を使います。公証役場で公正証書を作った方は、「支払わないときは強制執行を受けても異議がない」という内容が入っているか確認してください。
このような書面は債務名義と呼ばれます。銀行口座を差し押さえるときは、普段保管しているコピーではなく、強制執行に使う正本が必要です。
審判書には確定証明書、公正証書には執行文を付けます。さらに、相手にも書面が届いたことを示す送達証明書をそろえます。どの証明書が必要か分からないときは、書面を作成した家庭裁判所または公証役場へ確認できます。
離婚協議書や合意書しかない方
父母が署名した離婚協議書や合意書は、これまで、その書面だけで銀行口座を差し押さえることはできませんでした。
2026年4月からは、養育費の金額や支払日を父母で決めたことが書面で確認できれば、子ども1人につき月額8万円までの未払い分について、一般の先取特権を使える制度が始まりました。
対象になるのは、2026年4月1日以後に支払日が来た養育費です。それより前の未払い分や、月額8万円を超える部分を含めて請求するときは、先に債務名義を取得する方法を確認します。
養育費を決めた書面がない方
養育費を決めていない場合は、先に毎月の金額や支払期間を決めるのが原則です。相手と話し合えるときは、決まった内容を書面に残します。返事がない、話し合いがまとまらないというときは、家庭裁判所の養育費請求調停を利用できます。
なお、2026年4月1日以後に養育費を決めずに離婚した場合は、一定の期間、子ども1人につき月額2万円の法定養育費が発生します。法定養育費の未払い分を銀行口座から回収できるかは、離婚日と対象月を確認して判断します。
次に、銀行へ請求する未払い額を計算します
銀行口座の差押えで請求するのは、原則として支払日を過ぎた未払い分です。まだ支払日が来ていない将来分を、銀行口座から継続して受け取る手続ではありません。
月ごとに、約束した金額と実際の入金額を照らし合わせます。一部だけ支払われた月は、その差額だけが未払いです。
| 対象月 |
約束した金額 |
実際の入金 |
未払い額 |
| 4月分 |
5万円 |
0円 |
5万円 |
| 5月分 |
5万円 |
0円 |
5万円 |
| 6月分 |
5万円 |
0円 |
5万円 |
| 7月分 |
5万円 |
2万円 |
3万円 |
| 合計 |
|
|
18万円 |
この例で裁判所へ請求する元金は18万円です。申立てを準備している間に入金があったときは、その金額を差し引いてから請求債権目録を作ります。
相手の銀行名と支店名を確認します
銀行口座を差し押さえるには、裁判所から差押命令を送る銀行と支店を特定します。口座番号まで分からなくても申立てはできますが、銀行名と支店名は必要です。
以前の養育費が銀行振込みだったなら、まずご自身の通帳や入出金明細を見てください。振込元の銀行名や支店名が表示されていることがあります。婚姻中の通帳、住宅ローンや家賃の引落資料、離婚時の財産目録に口座情報が残っていることもあります。
見つかった情報が古いときは、銀行名・支店名と一緒に、いつ確認した口座なのかも控えておきます。
銀行や支店が分からないとき
一定の条件を満たす方は、地方裁判所の第三者からの情報取得手続を使い、銀行から支店名、口座番号、預金額の情報を受け取れます。
この手続では、調べたい銀行や信用金庫を自分で選びます。裁判所が全国の金融機関を自動的に調べてくれるわけではありません。過去の振込履歴や、婚姻中に利用していた金融機関から候補を選びます。
情報取得の申立手数料は1件1,000円です。このほかに郵便料、裁判所が定める予納金、指定した金融機関1名につき2,000円の費用がかかります。
ここで分かるのは口座情報です。口座情報を受け取っただけでは、養育費は回収できません。その情報を使って、銀行口座の差押えを改めて申し立てます。
3つが確認できたら、申立書を作ります
養育費の書面、未払い額、銀行と支店がそろったら、相手の住所地を管轄する地方裁判所へ出す書類を作ります。
裁判所のウェブサイトから「養育費等に基づく債権差押命令申立書」の書式を入手します。銀行口座を対象にするときは、給与用ではなく預金用の差押債権目録を選んでください。
申立書は、次の4つで一組です。
申立書の表紙
申立人と相手の氏名、使う債務名義、対象にする銀行の数などを書きます。銀行へ預金の有無や金額を回答してもらう陳述催告も、ここで申し立てます。
当事者目録
養育費を受け取る人、支払う人、銀行の住所と正式名称を書きます。銀行の商号、本店所在地、代表者は、法務局で取得した資格証明書と同じ内容を記載します。
請求債権目録
何月分の養育費が、いくら支払われていないのかを書きます。先ほど計算した月ごとの未払い額と合計額を、そのまま転記できる形にしておくと書き間違いを防げます。
差押債権目録
どの銀行・支店にある相手名義の預金を、いくらまで差し押さえるのかを書きます。普通預金、定期預金などの記載順は、申立先の地方裁判所が用意する預金用書式に従います。
申立書に添える書類を確認します
債務名義に基づいて申し立てる方は、申立書4点に次の書類を添えます。
| 書類 |
どこを確認するか |
| 債務名義の正本 |
調停調書、審判書、判決書、公正証書など。コピーや謄本ではなく、強制執行に使う正本か確認する |
| 送達証明書 |
債務名義が相手へ届いたことを証明する |
| 執行文 |
公正証書や判決書など、執行文が必要な書面に付いているか確認する |
| 確定証明書 |
審判書など、確定したことの証明が必要な書面に添える |
| 銀行の資格証明書 |
申立日から3か月以内に発行された代表者事項証明書などを法務局で取得する |
| 住所・氏名の変更が分かる公文書 |
書面に記載された住所や氏名と現在が違うとき、住民票、戸籍謄本、戸籍の附票などで変更の経過を示す |
離婚協議書などを使い、先取特権に基づく担保権実行を行う方は、養育費の合意書面や戸籍・住民票などを添えます。債務名義に基づく申立てとは書式が違うため、混ぜないようにしてください。
相手の住所地を管轄する地方裁判所へ提出します
申立先は、原則として相手の現在の住所地を管轄する地方裁判所です。養育費を決めた家庭裁判所や、ご自身の住所地の裁判所ではない点に注意してください。
債務名義に基づく差押えの申立手数料は、原則4,000円です。このほかに郵便料、銀行の資格証明書や住民票などの取得費用がかかります。
裁判所ごとに郵便料と提出部数が決められています。書類を印刷する前に、申立先の地方裁判所が案内している最新の金額と必要部数を確認してください。
書き漏れや証明書の不足があると、裁判所から補正の連絡が来ます。期限と修正箇所を確認し、訂正書類や不足書類を提出します。
差押命令が銀行へ届くと、その時点の預金が押さえられます
裁判所が申立てを認めると、銀行と相手へ債権差押命令を送ります。この手続では、銀行を第三債務者と呼びます。
差押えの効力が生じるのは、差押命令が銀行へ届いた時です。その時点で相手名義の預金があれば、未払い養育費として請求した金額の範囲で払戻しが止まります。
口座全体が使えなくなるわけではありません。たとえば、口座残高が30万円で、差し押さえた金額が18万円なら、差押えの対象は18万円です。
陳述催告を一緒に申し立てていれば、銀行から預金の有無や差押えの対象額を記載した陳述書が届きます。ここで、銀行からいくら受け取れる見込みかが分かります。
差押命令が出ても、自動では振り込まれません
相手へ差押命令が届いた日から1週間を過ぎると、銀行から差し押さえた預金を受け取れるようになります。
まず、銀行の担当部署へ連絡します。裁判所の事件番号を伝え、本人確認書類、振込先、銀行が指定する書類を確認してください。必要書類を提出すると、銀行から指定口座へ支払われます。
銀行から支払いを受けた後は、受け取った金額を記載した取立届を裁判所へ出します。未払い分をすべて回収できたときは取立完了届を出します。
銀行が差し押さえた預金を法務局へ供託したときは、銀行から直接受け取りません。その場合は、裁判所から届く配当手続の案内に従います。
口座に残高がなかったときは、次の入金を自動では回収できません
銀行口座の差押えで対象になるのは、差押命令が銀行へ届いた時点の預金です。情報取得をした時には残高があっても、差押命令が届く前に引き出されていれば、その分は回収できません。
差押えの後に給料などが入金されても、今回の差押命令だけで新しい入金まで受け取ることはできません。もう一度同じ口座を差し押さえるか、別の口座を探すか、勤務先が分かるなら給与差押えへ切り替えます。
自分で進めるときは、書面・金額・支店名の3つを先にそろえます
銀行口座の差押えは、自分で申し立てられます。最初から申立書を書き始めるのではなく、次の3つがそろっているか確認してください。
申立書を書く前にそろえる3つ- 1 差押えに使える書面
調停調書、審判書、強制執行認諾文言のある公正証書、または先取特権に使う合意書面
- 2 月ごとの未払い額
約束した支払日と月額、実際の入金額を照らし合わせて計算した金額
- 3 相手の銀行名と支店名
裁判所から差押命令を送る金融機関の正式名称と支店名
この3つがそろっていれば、申立書4点と添付書類を準備し、地方裁判所へ提出します。どれかが分からないときは、この記事の該当する項目に戻り、先に不足している情報を確認してください。