養育費の支払いが止まり、相手が連絡に応じない、勤務先を変えた、転居先が分からないという状況では、「このまま逃げ切られるのでは」と不安になると思います。
最初にお伝えしたいのは、連絡を無視したり転職したりしただけで、すでに決めた養育費の支払義務や未払い額が消えるわけではないということです。
ただし、実際に回収する方法は、取り決めの有無、手元の書面、相手の勤務先や口座が分かるかによって変わります。まずは現在地を分けて考えることが大切です。
| 現在の状況 |
最初に検討すること |
| 養育費の金額を決めていない |
相手との話し合い、または養育費請求調停で月額や開始月を決める |
| 金額は決めたが、父母だけの合意書やLINEしかない |
未払い額と合意内容を整理し、支払いを求める。使える回収手続は書面の内容と時期で判断する |
| 調停調書・審判書・判決書・強制執行認諾文言付き公正証書がある |
履行勧告や給与・預貯金の差押えを検討する |
| 勤務先や口座が分からない |
財産開示や第三者からの情報取得手続を利用できるか確認する |
まず取り決めと未払い額を確認します
回収手続を選ぶ前に、養育費をいつ、いくら、いつまで支払うと決めたのかを確認します。調停調書、審判書、判決書、公正証書、離婚協議書、合意書、LINEなど、手元にあるものを一か所へ集めてください。
次に、通帳や入出金明細から、支払いが止まった月と各月の不足額を整理します。相手へ請求するときも、裁判所へ申し立てるときも、「何月分が、いくら未払いなのか」を分けて示せることが重要です。
相手と連絡が取れる場合は、対象月、未払い合計額、振込期限、期限までの支払いが難しい場合の回答期限を文章で伝えます。同じ連絡を短い間隔で繰り返すのではなく、記録が残る形で一度具体的に請求し、返答がなければ次の手続へ切り替えます。
養育費の取り決めがない場合は、先に金額を決めます
養育費の月額や支払期間を決めていない場合は、まず相手と話し合います。話し合いがまとまらない、または連絡自体ができないときは、家庭裁判所へ養育費請求調停を申し立てる方法があります。
調停では、父母双方の収入、子どもの人数と年齢、生活状況などをもとに、月額、開始月、支払日、支払期間を話し合います。合意できない場合は審判へ移り、家庭裁判所が事情を踏まえて判断します。
2026年4月1日以後に養育費を決めずに離婚した場合は、一定の要件のもとで、子ども1人につき月2万円の法定養育費を請求できる制度があります。これは適正な養育費を決めるまでの暫定的・補充的な制度で、2026年3月31日以前に離婚した場合へ遡って適用されるものではありません。
裁判所で決めた養育費が未払いなら履行勧告を申し出られます
調停調書、審判書、判決書など、家庭裁判所で決めた養育費が支払われていない場合は、取り決めをした家庭裁判所へ履行勧告を申し出ることができます。
家庭裁判所が相手へ支払いを促す手続で、申出手数料はかかりません。ただし、履行勧告には差押えのように支払いを強制する効力はありません。相手が応じない場合は、強制執行を検討します。
父母だけで作成した離婚協議書や合意書、LINEでの約束は履行勧告の対象ではありません。どの手続を利用できるかは、書面の種類だけでなく、作成時期と記載内容を確認して判断します。
強制執行に使える書面があれば給与や預貯金の差押えを検討します
調停調書、審判書、判決書、強制執行認諾文言付き公正証書などを使える場合は、相手の給与や預貯金を差し押さえて未払い養育費の回収を図る方法があります。
給与差押えでは、養育費の未払い分に加え、支払期限が来る将来分も一つの申立てで対象にできる場合があります。差し押さえられる範囲は、税金や社会保険料を除いた手取額の2分の1が原則上限です。
預貯金差押えは、差押命令が金融機関へ届いた時点の口座残高が対象です。口座情報が分かっていても残高がなければ、その差押えだけでは回収できません。給与と預貯金のどちらが適しているかは、相手の就労状況と把握している財産から判断します。
勤務先や口座が分からない場合は財産情報を確認する手続があります
勤務先や口座を知らないからといって、直ちに回収方法がなくなるわけではありません。一定の要件を満たす場合は、財産開示手続や第三者からの情報取得手続を利用できます。
財産開示手続は、相手本人を裁判所へ呼び、財産について陳述を求める手続です。第三者からの情報取得手続では、裁判所を通じて金融機関から預貯金情報を、一定の場合に市区町村や日本年金機構等から勤務先情報を取得できることがあります。
ただし、申し立てれば無条件にすべての財産が判明するわけではありません。利用要件、取得できる情報、必要な前置手続があり、情報を取得した後は、その財産に対する差押えを別に申し立てる必要があります。
2026年改正で使える制度にも対象と条件があります
2026年4月1日から、養育費の回収に関する手続が変わりました。ただし、離婚時期、養育費が発生した時期、合意の有無によって使える制度が異なります。
| 制度 |
利用を考える場面 |
注意点 |
| 法定養育費 |
2026年4月1日以後に養育費を決めずに離婚した |
子ども1人につき月2万円の暫定的な制度。以前の離婚へ遡って適用されない |
| 養育費の先取特権 |
2026年4月1日以後に発生した合意済み養育費を回収したい |
月額8万円×子どもの数が上限。合意書面等と、作成者の意思を示す資料を求められることがある |
| 養育費等のワンストップ執行手続 |
勤務先が分からず、給与情報の取得と差押えを続けて進めたい |
一定の書面があり、3年以内に財産開示期日が実施されたことなどの要件がある |
新制度ができても、申立てだけで相手の財産が自動的に見つかり、未払い分が振り込まれるわけではありません。自分の離婚日、養育費が発生した時期、手元の書面を先に整理してください。
回収がすぐには進まない場合もあります
相手に現在の収入や財産がない場合
差押えは、相手の給与、預貯金、不動産などの財産を対象とする手続です。相手に差し押さえられる財産が見つからなければ、手続をしても直ちに全額を回収できないことがあります。
相手が転職した場合
以前の勤務先に対する給与差押えは、退職後の新しい勤務先へ自動的に引き継がれるものではありません。新しい勤務先を確認し、その勤務先を対象とする手続が必要になる場合があります。
口座残高が少ない場合
預貯金差押えは、命令が届いた時点の残高が対象です。金融機関と支店が分かっていても、残高が少なければ回収額は限られます。
取り決めがなく、離婚から時間がたっている場合
養育費の金額を決めていなかった期間について、過去の全期間分が当然に未払いになるとは限りません。離婚時期、請求を始めた時期、父母間のやり取りを整理し、今後分と過去分を分けて考えます。
迷ったときは現在地から次の一手を選びます
| 現在地 |
次に検討すること |
| 取り決めがない |
相手との話し合い。まとまらなければ養育費請求調停 |
| 裁判所の書面があり、相手と連絡が取れる |
未払い月・金額・期限を示して請求。必要に応じて履行勧告 |
| 強制執行に使える書面と勤務先・口座情報がある |
給与または預貯金の差押え |
| 強制執行に使える書面はあるが財産情報がない |
財産開示・第三者からの情報取得を利用できるか確認 |
| 相手との直接連絡が難しい |
弁護士へ連絡・請求・財産調査・申立ての進め方を相談 |
相手が無視していても、手元の状況から方法を整理できます
養育費の支払いを止めた相手が、連絡を無視したり転職したりしても、それだけで取り決めや未払い額が消えるわけではありません。一方で、どの制度でも必ず相手の財産が見つかり、全額を回収できるとは限りません。
取り決めがないのか、使える書面があるのか、勤務先や口座を知っているのかで、最初の手続は異なります。手元の書面、振込履歴、相手の勤務先や住所について分かることを整理し、どの方法から進めるか分からない場合は弁護士へ相談してください。