元夫が養育費を払わなくなり、再婚相手の後妻に収入があると、「後妻へ未払い分を請求できないか」と考える方もいるでしょう。
しかし、元夫が養育費を払わないというだけでは、後妻へ未払い分を請求できません。養育費の支払義務は、取り決めをした元夫本人にあります。
後妻へ請求できるのは、後妻自身が保証人になった場合や、特定の未払い分を支払う責任を有効な契約で引き受けた場合などに限られます。後妻の収入が多いことや、夫婦の家計を後妻が管理していることは、後妻に支払義務が生じる理由にはなりません。
後妻に収入があっても、養育費の支払義務までは生じません
養育費は、子どもの父母がそれぞれの経済力に応じて負担する子どもの生活費です。元夫が再婚しても、父と子の親子関係は続き、元夫の支払義務もなくなりません。
一方、後妻は元夫の配偶者になっただけで、あなたと元夫が決めた養育費の当事者にはなりません。後妻に給与や事業収入があっても、その収入は後妻自身のものです。後妻が家計や元夫の通帳を管理していても、それは再婚後の家庭内でのお金の管理方法にすぎず、元夫の養育費債務を引き受けたことにはなりません。
元夫から「お金のことは妻に任せている」と言われても、元夫の支払義務が後妻へ移るわけではありません。支払いを求める相手は、引き続き元夫です。
後妻へ請求できるのは、後妻自身が支払いの責任を引き受けた場合です
後妻が元夫と結婚したという事実ではなく、後妻自身が未払い養育費を支払う法的な責任を引き受けた証拠があるかが重要です。
後妻が保証人になっている場合
後妻が保証人として有効な保証契約を結んでいれば、元夫が払わないときに、契約で定めた範囲を後妻へ請求できることがあります。
保証契約は、原則として書面または電磁的記録で結ぶ必要があります。後妻が会話の中で「私が払います」と話しただけでは、継続的な保証責任まで負ったとはいえません。
後妻が特定の未払い分を引き受けた場合
後妻が「2026年4月分から6月分までの未払い15万円を支払う」など、対象となる債務を明確にして引き受け、あなたが後妻へ直接請求できる内容の有効な合意が成立していれば、その合意に基づく請求が問題になります。
元夫と後妻の間だけで「今後は妻が払う」と話していても、あなたが後妻へ直接請求できる契約になっているとは限りません。誰との間で合意したのか、どの月のいくらを対象にしたのか、支払期限はいつかが書面から分かる必要があります。
後妻から一度振り込まれても、今後の支払いまで約束したことにはなりません
後妻が元夫に代わって一度だけ未払い分を振り込むことはできます。ただし、一度入金があっただけで、後妻が今後の養育費すべてを保証したことにはなりません。
後妻から入金があったときは、次の内容が残るようにします。
- 振り込まれた日と金額
- 何月分の養育費として支払われたのか
- 今回だけの立替えか、今後の支払いも約束しているのか
- 今後の約束がある場合は、対象月・金額・支払期限
元夫の未払い分が後妻の振込みで清算された月は、同じ金額を元夫へ重ねて請求できません。反対に、後妻が払っていない月については、元夫の未払いとして残ります。
後妻が子どもと養子縁組しても、元夫の過去の滞納までは引き継ぎません
後妻が子どもと養子縁組をすると、後妻と子どもの間には法律上の親子関係が生じ、後妻は養親として子どもを扶養する立場になります。
しかし、養子縁組によって後妻が元夫の債務を引き継ぐわけではありません。元夫が養子縁組前から滞納していた養育費は、元夫本人に対する未払い債権として残ります。
養子縁組後の子どもの生活費を誰が負担するかと、すでに発生している元夫の未払い分を誰が支払うかは別の問題です。
後妻の収入が問題になるのは、元夫が養育費の減額を求めてきた場面です
後妻に収入があることは、後妻へ未払い分を請求する根拠にはなりません。ただし、元夫が再婚後の扶養負担を理由に養育費の減額を求めた場合は、再婚後の家庭状況を考える一要素になることがあります。
たとえば、元夫が「後妻と新しい子どもを養っているため、現在の養育費を払えない」と主張したとき、後妻にも十分な収入があり、自分の生活費を負担できるなら、元夫が後妻の生活費を全面的に負担しているとは限りません。家庭裁判所では、元夫の収入、新しい子どもの有無、後妻の収入や生活状況などを踏まえて、元夫が実際にどの程度の扶養負担をしているかが問題になります。
これは後妻の収入を理由に後妻へ請求する話ではありません。後妻の収入は、元夫が求める減額に理由があるかを判断する場面で関係します。
元夫が再婚しただけで、現在の養育費が自動的に減ることはありません。元夫が一方的に金額を減らしたり、支払いを止めたりすることもできません。金額を変えるには、父母が新しい金額に合意するか、話合いがまとまらない場合に家庭裁判所の調停・審判で変更を求める必要があります。
後妻名義の給与や預金は差し押さえられません
元夫に対する養育費債権があっても、後妻名義の給与や銀行口座は後妻の財産です。元夫の未払い養育費を理由に、後妻の給与や預金を差し押さえることはできません。
元夫が差押えを避けるため、後妻名義の口座へ財産を移した疑いがある場合も、疑いだけで後妻の口座を差し押さえることはできません。送金履歴、財産を取得した時期、元夫と後妻のやり取りなどから、実際には誰の財産なのかを法的に判断する必要があります。
後妻へいきなり連絡すると、請求とは別のトラブルになるおそれがあります
後妻に支払義務があると決めつけた請求書を送らない
保証や債務引受の根拠がないのに、「あなたにも支払義務がある」「払わなければ差し押さえる」と後妻へ告げるのは避けるべきです。後妻が元夫と結婚したことや、後妻に収入があることだけでは、そのような請求の法的根拠になりません。
電話やメッセージを繰り返し、勤務先や親族へ連絡を広げない
支払いを迫る連絡を後妻へ何度も送ったり、後妻の勤務先や親族へ未払いの事情を伝えたりすると、新しいトラブルにつながります。脅す表現や、私生活を周囲へ知らせるような連絡もしてはいけません。
元夫と連絡が取れない場合でも、後妻への連絡を繰り返すのではなく、元夫の住所や勤務先を法的な方法で調べ、元夫に対する請求手続を進めます。
元夫の「妻に任せている」という説明だけで請求先を変えない
後妻が家計を管理していても、元夫が支払義務を免れるわけではありません。元夫から「妻へ連絡してほしい」と言われた場合は、後妻が単なる連絡窓口なのか、支払いの責任まで引き受けるのかを書面で明らかにします。
後妻から任意に連絡があった場合も、話した日、支払う対象月、金額、期限を記録に残します。
元夫への請求書面には、未払いの対象月と支払期限を書きます
元夫へ未払い分を請求するときは、「養育費を払ってください」だけで終わらせず、請求額の根拠が分かるようにします。
- 取り決めた月額と毎月の支払日
- 入金がなかった対象月
- 現在までの未払い合計額
- 今回の支払期限と振込先
送った日と内容が残るLINE、メール、書面などを使います。元夫から支払予定日の返答があれば、そのやり取りも保存します。
公正証書や調停調書があるかで、その後の手続が変わります
強制執行認諾文言付き公正証書、調停調書、審判書、判決などがある場合は、元夫の給与や銀行口座を対象にした強制執行へ進めることがあります。勤務先や銀行が分からないときは、法律上の財産調査を使える場合があります。
強制執行に使える書面がない場合は、元夫との合意を書面にするか、家庭裁判所で養育費の金額を定める手続が必要です。未払いの対象月と金額が分かる入金記録は、どちらの場合にも役立ちます。