養育費だけを書面に残したい場合は「養育費合意書」、養育費と離婚に伴うほかの合意を一つにまとめたい場合は「離婚協議書」として作成できます。
養育費合意書と離婚協議書のどちらを選んでも、養育費について書く基本事項は共通です。支払う人と受け取る人、対象となる子ども、月額、支払期間、支払日、振込方法を具体的に書きます。
「養育費は毎月5万円」「大学を卒業するまで」のように金額や時期を曖昧にすると、支払いが始まる月、毎月の期限、終わる時期が分かりません。後から読み返したときに、誰が、誰に、どの子どもの養育費を、いつ、いくら支払うのかが明確に分かるように書く必要があります。
養育費合意書と離婚協議書は何が違う?
養育費合意書は、養育費の支払いについて父母が合意した内容を残す書面です。離婚後に養育費だけを取り決める場合や、離婚に関するほかの条件とは分けて養育費を書面にしたい場合に使えます。
離婚協議書は、離婚に伴う合意を一つにまとめる書面です。養育費のほかに、親権者、親子交流、財産分与なども合意している場合は、その中に養育費の条項を設けます。
書面の題名だけで効力が変わるわけではありません。養育費の内容が具体的に書かれ、父母双方がその内容に合意していることが重要です。合意書に法律で決められた署名・押印の様式はありませんが、誰がどの内容に合意したかを後から示せるよう、作成日を入れ、同じ最終文面に署名や押印をしておくと確認資料になります。
なお、養育費合意書や離婚協議書に署名しただけで協議離婚が成立するわけではありません。協議離婚は、離婚届が市区町村に受理されたときに成立します。
どちらの書面を選べばよい?
- 養育費だけを書面に残す場合:養育費合意書
- 養育費と離婚に伴うほかの合意を一つにまとめる場合:離婚協議書
- 未払いになったときの強制執行まで備えたい場合:強制執行認諾文言付き公正証書
養育費だけを合意書にした後で、同じ内容を公正証書にすることもできます。離婚協議書を作成した場合も、その中の養育費条項をもとに、公証役場で公正証書を作成できます。
養育費の合意書・離婚協議書に書く7項目
次の7項目は、法律で決められた固定の様式ではありません。養育費の支払いの内容を特定し、誰が読んでも同じ意味になるようにするための実用上の7項目です。
養育費の合意書・離婚協議書に書く7項目- 1 支払う人・受け取る人 — 父母を氏名で特定します
- 2 対象となる子ども — 氏名と生年月日を一人ずつ書きます
- 3 子どもごとの月額 — 一人ごとの金額を数字で書きます
- 4 開始月と終了月 — 最初と最後の対象月を明確にします
- 5 毎月の支払日 — 何日までに支払うかを書きます
- 6 振込先・手数料 — 口座と振込手数料の負担者を書きます
- 7 作成日・合意の記録 — 同じ最終版に合意した記録を残します
1. 支払う人と受け取る人を氏名で書く
養育費を支払う人と受け取る人を、戸籍上の氏名で書きます。本文で「甲」「乙」と呼ぶ場合は、最初に誰が甲で、誰が乙なのかを明記し、その後も同じ呼び方を使います。
2. 対象となる子どもを一人ずつ書く
子どもの氏名と生年月日を書きます。子どもが2人以上いる場合は、一人ずつ特定します。合計額だけを書かず、誰についていくら支払うのかを分けておけば、一人の支払期間が終わった後に残る金額も分かります。
3. 子ども一人ごとの月額を書く
「必要な金額を支払う」ではなく、子ども一人につき月額いくらと数字で書きます。2人分をまとめて書く場合も、内訳を併記すると、一人の支払期間が終わった後に残る金額が分かります。
金額を話し合う際は、父母の収入、子どもの人数と年齢を養育費算定表に当てはめた金額が一つの目安になります。
4. 支払いを始める月と終える月を書く
最初に支払うのが離婚した月の分か、翌月分かを明記します。終わる時期も「成人するまで」とせず、年月を特定できる表現にします。
例えば大学卒業時期までを想定する場合は、「子が22歳に達した後、最初に到来する3月分まで」と書けます。18歳になれば必ず養育費が終わるわけではないため、子どもの進学予定や経済的に自立する時期を踏まえて、具体的な終了時期を父母で話し合います。
5. 毎月の支払日を書く
「毎月支払う」だけでは、何日を過ぎたら未払いになるのかを判断できません。「毎月末日まで」「毎月25日まで」のように期限を日付で書きます。
支払日が土曜日、日曜日、祝日など金融機関の休業日に当たる場合は、前営業日と翌営業日のどちらにするかも明記できます。
6. 振込先と振込手数料の負担を書く
銀行振込にする場合は、金融機関名、支店名、預金の種類、口座番号、口座名義を書きます。振込手数料を支払う側と受け取る側のどちらが負担するのかも明記します。
口座を変更したときの連絡方法も添えておけば、振込先が変わった後の行き違いを防ぎやすくなります。
支払いの始まりから終わりまでを具体的に書きます- 開始月 — 令和○年○月分から
- 毎月の金額 — 月額○万円
- 支払期限と方法 — 毎月○日までに振込
- 終了月 — 令和○年○月分まで
7. 作成日と合意したことが分かる記録を残す
書面の末尾に作成日を入れ、父母双方が同じ最終版を確認したことが分かる形で署名や押印をします。押印は法律上の必須条件ではありません。紙の書面なら自筆の署名や押印、電子的に作る場合は電子署名やメールの送受信記録などが、本人の意思に基づく合意であることを後から示す資料になります。
紙で作る場合は、同じ内容の原本を2通作り、父母双方が2通とも署名し、それぞれ1通ずつ保管する方法が分かりやすいでしょう。2通作成は法律上の必須条件ではありません。原本を1通だけ作る場合は、誰が原本を保管するのかを決め、もう一方も同じ内容の写しを保管します。
上の文例は、紙の原本を2通作る場合の一例です。2通作成や押印をしなければ合意が無効になるという意味ではありません。
養育費合意書の文例
次の文例は、子ども一人について月額5万円を支払い、大学卒業時期までを想定した例です。氏名、生年月日、金額、支払期間、支払日、振込先は、実際の合意内容に書き換えてください。
この文例も、紙の原本を2通作る場合を想定しています。2通作成や押印は、合意の有効性を決める法律上の要件ではありません。
離婚協議書に養育費を書く場合の文例
離婚協議書では、養育費に関する内容を独立した条項にしておくと、後から確認しやすくなります。父母を表す「甲」「乙」は、離婚協議書の冒頭で定めた呼び方に合わせます。
進学や医療にかかる費用は別の条項にする
入学金、私立学校や大学の授業料、留学費用、入院費、手術費などを毎月の養育費とは別に負担する場合は、7項目とは別に条項を加えます。
「必要な費用は折半する」だけでは、対象になる費用や支払期限が分かりません。対象にする費用、父母が事前に話し合う時期、見積書や請求書の共有、負担割合、支払期限を具体的に書きます。
養育費合意書・離婚協議書を作成する流れ
養育費の合意書・離婚協議書を作る5つの手順- 1 7項目を話し合う — 月額・期間・支払日・振込先などを決めます
- 2 一つの文案を作る — 父母と子どもを特定し、合意内容を書きます
- 3 空欄と数字を確かめる — 金額・年月・口座番号を父母双方で読み合わせます
- 4 最終版に合意した記録を残す — 作成日を入れ、署名などで合意を示します
- 5 父母双方が保管する — 紙なら同じ原本を2通作る方法が分かりやすいでしょう
文案が完成したら、金額、年月、口座番号に空欄がないかを父母双方で読み合わせます。修正がある場合は、署名する前に一つの最終版へ反映させます。
書面を完成させる前に確かめたいこと
- ✓ 父母と子どもの情報 — 氏名と子どもの生年月日に誤りがないか確認します
- ✓ 金額と支払期間 — 月額、開始月、終期、毎月の支払日に空欄がないか確認します
- ✓ 曖昧な言葉 — 「成人まで」「必要に応じて」など、複数の意味に読める表現が残っていないか確認します
- ✓ 振込先 — 金融機関名、支店名、口座番号、口座名義が正しいか確認します
- ✓ 同じ最終版 — 父母が同じ内容を確認し、合意したことが分かる記録を残しているか確認します
後から養育費の条件を変える場合
収入、子どもの進学、健康などの事情が大きく変わり、父母が養育費の変更に合意した場合は、元の書面へ手書きで書き足すより、変更合意書を別に作る方が、いつ、何を変えたのかが分かりやすくなります。
変更合意書には、元の養育費合意書または離婚協議書の作成日、変更する条項、新しい月額や支払方法、変更後の条件が始まる月、すでに支払期限を迎えた未払い分の扱いを書きます。変更しない条項は従来どおりとすることも明記し、元の書面と変更合意書を一緒に保管します。
元の取り決めが強制執行認諾文言付き公正証書や調停調書であり、変更後の養育費についても差押えに備えたい場合は、変更内容を公正証書にする方法や家庭裁判所の手続についても確かめる必要があります。
私的な合意書と公正証書では、未払い時の手続が異なる
養育費合意書と離婚協議書は、父母が作成する私的な書面です。2026年4月1日以後に発生する養育費については、父母間の合意書面を使い、子ども一人につき月額8万円を上限として、先取特権に基づく差押えを申し立てられる場合があります。
この8万円は、合意できる養育費の月額を制限する金額ではなく、先取特権が付く範囲の上限です。2026年3月31日までに養育費を取り決めていた場合も、2026年4月1日以後に発生する各月分は対象になり得ます。
ただし、合意書があれば、約束した養育費の全額を必ず差し押さえられるという意味ではありません。裁判所は、合意の内容、その書面が本人の意思で作成されたこと、未払いが発生した時期などを審査します。本人の意思に基づいて作られた書面だと示すため、署名や押印、作成時のメールやLINEなどの追加資料を求められることもあります。
合意した養育費の全額について通常の強制執行に備えたい場合は、公証役場で強制執行認諾文言付き公正証書を作成する方法があります。公正証書にするには、養育費の金額や支払期間について父母が合意し、公証人へ作成を依頼します。
養育費について合意できないときはどうする?
月額、支払期間、支払日などについて合意できない場合は、一方が作成した書面へ相手の署名を求めても、合意書として完成しません。
話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所へ養育費請求調停を申し立てる方法があります。調停では、父母の収入、子どもの人数と年齢、生活状況などをもとに養育費を話し合います。調停でも合意できない場合は、裁判官が審判で判断します。
署名する前に養育費の内容をご相談ください
養育費の合意書や離婚協議書は、署名した後で曖昧な部分に気づいても、相手の合意がなければ書き換えられません。子どもが2人以上いる場合、大学進学を想定する場合、特別費用を定める場合は、誰が読んでも同じ意味になる文面が必要です。
書き方に迷っている箇所や、未払いになったときの備えまで含めて相談したい場合は、作成中の文案をそのままお見せください。養育費について弁護士へ無料で相談できます。