養育費の強制執行を行うと、どのようなデメリットがありますか。
強制執行は、未払い養育費を相手の給与や預貯金などから回収するための方法です。一方で、実行した後に相手の勤務先へ通知されることや、退職・転職によって給与からの回収が止まること、口座残高が少なく十分に回収できないこともあります。
強制執行を行った後に、どのような影響が出る可能性があるのかを理解してから実行することが大切です。
ここでは、申立ての方法ではなく、強制執行を実際に行った場合のデメリットに絞って説明します。「会社に知られると必ず解雇される」「強制執行をすると今後の養育費を受け取れなくなる」と決めつけず、どのような場合に回収へ影響するのかを一つずつ確認してください。
強制執行を行った後に考えられる主なデメリット
最初に、強制執行後に起こり得ることを整理します。
| デメリット |
実行後に起こり得ること |
| 勤務先へ通知される |
給与を対象にすると、裁判所から勤務先へ命令が届きます |
| 退職・転職で回収が止まる |
旧勤務先から生じる給与がなくなると、同じ勤務先から回収を続けられません |
| 一度に全額を回収できない |
給与から回収できる金額には上限があり、未払い額が多いと回収に時間がかかります |
| 口座残高が少ないと結果が出ない |
対象口座に十分な残高がなければ、その口座から回収できる金額は限られます |
| 任意の支払いや連絡に影響する |
相手が取下げを求めたり、連絡を拒んだりすることがあります |
| 費用が回収額を上回ることがある |
費用をかけても、給与や口座から十分に回収できない場合があります |
| 命令後も管理が続く |
入金確認、取立て、裁判所への届出などが残ります |
これらがすべて起こるわけではありません。対象にする財産、相手の勤務状況、未払い額、強制執行後の相手の対応によって影響は異なります。
給与を対象にすると、相手の勤務先へ通知されます
相手の給与を対象にする場合、勤務先は裁判所の手続上「第三債務者」となり、裁判所から命令が送られます。そのため、少なくとも郵便を受け取り、給与を処理する担当者には、相手が強制執行を受けていることが伝わります。
ただし、従業員全員へ通知される手続ではありません。総務、人事、給与計算、経営者など、社内の誰が扱うかは会社の規模や体制によって異なります。
相手が勤務先に知られたことで居づらさを感じたり、取下げを求めたりする可能性はあります。しかし、勤務先へ命令が届くことと、相手が解雇・退職することは別の問題です。強制執行を受けたという理由だけで、雇用契約が自動的に終了するわけではありません。
勤務先への通知が相手に与える影響を心配している場合は、その勤務先が現在も変わっていないか、相手が退職・転職した場合に新しい勤務先を確認できる見込みがあるかまで考えておく必要があります。
相手が退職・転職すると、同じ勤務先からの回収は続きません
給与を対象にする強制執行は、申立てで特定した勤務先に対して行われます。相手がその勤務先を退職すると、旧勤務先から相手へ支払われる給与がなくなるため、同じ勤務先から今後の養育費を回収し続けることはできません。
相手が転職しても、裁判所の命令が新しい勤務先へ自動的に引き継がれるわけではありません。新しい勤務先を確認し、その勤務先を対象に改めて手続を進める必要があります。
相手が勤務先に居づらさを感じて退職・転職するとは限りません。一方で、実際に職場を離れた場合は、給与からの回収がいったん止まり、新しい勤務先を確認できるまで今後分を受け取れない期間が生じる可能性があります。
「強制執行をすると今後の養育費を受け取れなくなる」のではなく、退職・転職によって対象にした給与がなくなると、同じ方法では回収を続けられなくなるということです。
給与から一度に全額を回収できるとは限りません
養育費について給与を対象にする場合でも、給与の全額を受け取れるわけではありません。裁判所の案内では、税金や社会保険料などを差し引いた手取額の原則2分の1までが対象とされています。
これは回収できる上限の考え方であり、毎月必ず手取額の半分を受け取れるという意味ではありません。未払い額、実際の給与額、ほかの手続の有無などによって受取額は変わります。
未払い額が大きく、毎月の回収額が少ない場合は、全額を回収するまで長い時間がかかります。その間に相手が退職すると、旧勤務先からの回収はそこで止まります。
実行前には、現在の未払い総額と、相手の給与から毎月どの程度の回収を見込めるかを分けて考える必要があります。
預貯金を対象にしても、口座残高が少なければ十分に回収できません
預貯金を対象にする場合、実際に回収できる金額は、対象にした口座にある残高の範囲に限られます。未払い額が100万円あっても、対象口座の残高が少なければ、その口座から全額を回収することはできません。
相手が普段使っていない口座、残高をほとんど残さない口座、給与の振込先ではない口座を対象にすると、費用をかけても回収額が少ない、または回収できない場合があります。
預貯金を対象にする手続は、その後に同じ口座へ入るお金から毎月継続して回収できる方法ではありません。対象にする時期と口座の選び方によって結果が大きく変わる点がデメリットです。
強制執行をきっかけに、任意の支払いや連絡が止まることがあります
強制執行の命令は相手本人にも届きます。手続を知った相手が、強制執行の取下げを求める、これまでの任意支払いを止める、連絡へ応じなくなるなどの対応をする可能性があります。
強制執行による回収が続いている間は、相手が任意に振り込まなくても給与等から回収できる場合があります。しかし、その後に退職・転職して給与からの回収が止まり、任意支払いも再開されなければ、今後分の入金が途切れることがあります。
これも、強制執行を行えば必ず起こるわけではありません。これまで相手がどの程度任意に支払っていたか、連絡へ応じていたか、取下げを求められた場合にどの条件を確認するかを事前に考えておく必要があります。
取下げを求められたときは、「今後は払う」という言葉だけで判断せず、現在の未払い額、最初の入金日、今後の月額と支払日、再び支払いが止まった場合の扱いを確認します。
費用をかけても、回収額が費用を下回ることがあります
裁判所へ納める申立手数料は、債権者1人、債務者1人、債務名義1通、対象となる勤務先や金融機関が1つという基本的な例では4,000円です。これに郵便料や証明書の取得費用が加わります。弁護士へ依頼する場合は、別に弁護士費用も必要です。
これらの費用を支払っても、相手が勤務先をすでに退職している、対象口座の残高がほとんどないなどの事情があれば、1円も回収できない場合があります。残高が少なければ、回収額が費用を下回ることもあります。
費用を支払ったことと、その費用以上の養育費を回収できることは別です。実行前には、未払い総額だけでなく、現在分かっている給与や口座からどの程度の回収を見込めるかも確認する必要があります。
裁判所の命令が出た後も、入金確認や届出が残ります
裁判所の命令が出ただけで、裁判所から養育費が自動的に振り込まれるわけではありません。給与や預貯金を対象にした場合は、原則として命令が相手に届いてから1週間が経過した後、受け取る側が勤務先や金融機関から取り立てます。
支払いを受けたときは、裁判所へ取立届を提出します。全額を回収していない間は、何月分をいくら回収したのか、未払いがいくら残っているのかを管理しなければなりません。勤務先や金融機関が裁判所へ供託した場合は、裁判所の配当等を待つこともあります。
長期間回収できない場合にも、状況に応じた届出が必要になることがあります。強制執行は、裁判所へ申し立てて命令が出た時点で終わるものではありません。
強制執行を行う前に考えておきたいこと
デメリットがあるから強制執行を避けるべき、ということではありません。大切なのは、起こり得る影響を理解し、現在の相手の勤務状況や財産情報と照らし合わせることです。
- 給与を対象にする場合、現在の勤務先が分かっているか
- 相手が退職・転職した場合、新しい勤務先を確認できる見込みがあるか
- 預貯金を対象にする場合、その口座が現在も使われている可能性があるか
- 申立てや依頼に必要な費用と、見込める回収額を比べたか
- 取下げを求められた場合、どの条件を確認するか決めているか
- 命令後の入金確認、取立て、裁判所への届出を続けられるか
強制執行を行うか迷っている方へ
勤務先へ通知される影響をどの程度重く見るか、退職・転職や口座残高不足の可能性をどう考えるかは、相手の状況によって異なります。
手元の書面、未払い額、現在分かっている勤務先や口座、これまでの支払い状況を確認すると、実行した場合のデメリットと、見込める回収を比べやすくなります。
強制執行を行うか迷っている場合は、分かる範囲の資料をそろえてご相談ください。