養育費の給与を差し押さえると、相手の勤務先に知られるのでしょうか。会社の人全員に事情が広まったり、相手が解雇されたりしないか心配です。
勤務先への通知や雇用への影響が気になり、給与差押えをためらうことがあります。どこまで知られるのかを、手続上の事実と分けて整理しておくことが大切です。
給与差押えでは、裁判所から相手の勤務先へ債権差押命令が送られます。そのため、少なくとも郵便を受け取り、内容を確かめ、給与計算を行う担当者には差押えを知られます。
一方で、会社の従業員全員へ通知される手続ではありません。社内で誰が書類を扱うか、情報がどこまで共有されるかは、会社の規模や事務体制によって異なります。
勤務先へ債権差押命令が届くため担当者には知られます
給与差押えでは、相手の勤務先が第三債務者となります。第三債務者とは、相手へ給与を支払う立場にある人や会社のことです。
差押命令が勤務先へ送達されると、会社は差し押さえられた給与部分を相手本人へ支払えなくなります。申立ての際に陳述催告を申し立てている場合は、会社が給与債権の有無や支払意思等を陳述書で回答します。
裁判所から会社へ書類が届く以上、差押えそのものを勤務先へ伏せたまま給与を差し押さえることはできません。
勤務先へ届く書類から分かる内容
勤務先へ届く書類には、相手と受取側の氏名、差し押さえる給与債権、請求額等が記載されます。養育費を請求債権として申し立てた場合は、添付された目録等から養育費の差押えであることが分かる場合があります。
ただし、離婚の経緯や父母間のやり取り、子どもの学校、親子交流等の事情まで会社へ説明する手続ではありません。
| 勤務先が手続上把握する内容 |
通常は通知の目的に含まれない内容 |
| 当事者の氏名 |
離婚に至った経緯 |
| 給与債権が差押えの対象であること |
父母間の感情や連絡内容 |
| 請求額と差し押さえる範囲 |
子どもの学校や日常生活の詳細 |
| 陳述書で回答する給与・ほかの差押え等 |
親子交流の状況 |
表の右側は、裁判所の差押命令で会社へ報告する事項ではありません。会社が別の事情をすでに知っている場合まで、情報が消えるという意味ではありません。
社内で誰が知るかは会社の事務体制によって異なります
裁判所からの郵便を受け取る担当者、法務・総務、人事、給与計算、支払いを承認する担当者等が、事務処理に必要な範囲で内容を知ることがあります。
小規模な会社では経営者が直接扱うこともあり、大規模な会社では法務と給与担当が分かれていることもあります。経理担当者だけが知る、または社内全員に知られると一律には言えません。
差押えを申し立てる側から、会社内の取扱担当者や情報共有の範囲を指定することもできません。
給与差押えだけで雇用契約が自動的に終了するわけではありません
給与差押えは、未払い養育費を回収するための民事上の手続です。差押命令が会社へ届いたことだけで、雇用契約が自動的に終了する制度ではありません。
ただし、個別の解雇が有効かどうかは、会社が示す理由や就業規則、実際の事情により判断されます。労働契約法では、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は無効とされています。
そのため、給与差押えを受けた人は解雇されないと結果を約束することも、差押えを受けたら解雇されると決めつけることもできません。
勤務先は給与の確認・陳述・支払いまたは供託を行います
勤務先は、差押命令が届くと、現在も雇用しているか、給与・賞与・退職金等の支払いがあるか、ほかの差押えがあるかを調べます。
陳述催告がされている場合は、定められた期限内に陳述書を裁判所へ返送します。その後は、差し押さえられた給与部分を受取側へ直接支払う場合と、法務局等へ供託する場合があります。
勤務先が受取側へ直接支払うときも、裁判所から自動的に振り込まれるわけではありません。受取側から勤務先へ振込先や支払方法を伝え、支払いを受けた後に取立届等を裁判所へ提出します。
相手にも差押命令が送られるため差押えを知ることになります
差押命令は勤務先だけでなく、相手本人にも送達されます。相手は、自分の給与が差し押さえられたこと、請求額、差押えの範囲等を知ることになります。
相手から「今後は自分で払うから差押えを取り下げてほしい」と連絡が来ることもあります。取り下げを検討するときは、言葉だけで決めず、次の内容を整理しておきましょう。
| 取り下げ前に整理する内容 |
整理する理由 |
| 現在の未払い総額 |
どこまで支払われれば取り下げるのかを曖昧にしないため |
| 今後の月額・支払日・支払方法 |
取り下げ後の支払い条件を残すため |
| 最初の入金日 |
支払開始前に取り下げるかを判断するため |
| 支払いが再び止まった場合の扱い |
再度申し立てるための資料と手間を見込むため |
勤務先から支払いが始まっている場合は、受取額と対象月も見ます。相手との合意だけでなく、勤務先・裁判所で必要になる取下げ手続もあるため、入金と手続の時期を分けて考えることが大切です。
相手が退職・転職すると現在の勤務先への差押えは続きません
相手が退職し、現在の勤務先から給与・賞与・退職金等を受け取る権利がなくなれば、その会社を対象とする給与差押えから回収を続けることはできません。
転職しても、差押命令が新しい勤務先へ自動的に引き継がれるわけではありません。新しい勤務先を調べ、改めて差押えを申し立てる必要があります。
給与差押えの申立てから取立てまでの流れは別記事で確認できます
勤務先へ知られる範囲だけでなく、申立書類、差押可能額、将来分、取立届までを知りたい場合は、給与差押えの手続全体を先に整理すると判断しやすくなります。
まとめ
養育費の給与差押えでは、裁判所から勤務先へ債権差押命令が届きます。そのため、少なくとも書類を受け取り、内容を確かめ、給与を処理する担当者には差押えを知られます。
ただし、会社の従業員全員へ通知される手続ではありません。社内で誰が知るかは会社の事務体制によって異なり、申立てる側が取扱範囲を指定することもできません。
給与差押えだけで雇用契約が自動的に終了するわけではありませんが、個別の雇用上の判断を予測することはできません。相手から取下げを求められた場合は、未払い額、今後の支払条件、実際の入金を整理してから判断することが大切です。