養育費が支払われない状態が続くと、「罰則はないのでしょうか」と疑問に思うことがあります。
養育費の不払いだけを理由に、支払う側が直ちに逮捕されたり刑事罰を受けたりする制度ではありません。ただし、決められた支払義務や未払い額がなくなるわけではありません。
また、家庭裁判所の履行命令に従わない場合や、財産開示手続で正当な理由なく出頭しない場合等には、別の制裁が定められています。不払いそのものと、裁判所手続での違反を分けてお伝えします。
養育費の不払いだけで刑事罰になるわけではありません
養育費は、父母が子どもの生活費を分担するための民事上の支払義務です。支払期日を過ぎたことだけを理由に、刑事事件として逮捕・処罰されるわけではありません。
一方で、調停調書、公正証書、審判書、合意書等で決めた支払いがなくなったわけでもありません。支払われなかった月と金額を整理し、書面に応じた請求方法を選ぶことになります。
「刑事罰がない」と「法的な請求ができない」は同じ意味ではありません。
支払義務と未払い額は自動的に消えるわけではありません
取り決めた養育費が支払われないときは、まず次の内容を月ごとに分けてください。
| 整理する内容 |
見る資料 |
| 取り決めた月額・支払日 |
調停調書、審判書、公正証書、合意書等 |
| 実際に入金された金額 |
通帳、ネットバンキング履歴、振込通知 |
| 支払われなかった月 |
支払予定と入金履歴を並べた表 |
| 相手との連絡 |
LINE、メール、書面、通話日時のメモ |
一部だけ入金された月は、取り決めた金額と実際の入金額の差を未払い分として分けます。現金で受け取った分がある場合も、受取日と金額を記録しておくと整理しやすくなります。
裁判所手続ごとに目的と制裁が異なります
養育費の不払いに関係する制度には、支払いを促す手続、財産を差し押さえる手続、手続上の違反に制裁を設ける制度があります。
| 制度・行為 |
目的 |
支払わない場合等の扱い |
| 養育費の不払い |
子どもの生活費に関する民事上の問題 |
不払いだけを理由とする直接の刑事罰ではない |
| 履行勧告 |
家庭裁判所が取決めを守るよう促す |
勧告だけで支払いを強制することはできない |
| 履行命令 |
家庭裁判所が期限を定めて履行を命じる |
正当な理由なく従わない場合は10万円以下の過料 |
| 強制執行 |
給与・預貯金等を差し押さえて回収を図る |
刑事罰ではなく、対象財産に対する民事執行 |
| 財産開示 |
裁判所で財産について陳述させる |
不出頭・宣誓拒否・不陳述・虚偽陳述等は刑事罰の対象になり得る |
過料と刑事罰の罰金は別のものです。履行命令違反の10万円以下の過料を、「養育費を払わないと罰金になる」と読み替えないようにしてください。
履行勧告は家庭裁判所で決めた内容の履行を促します
履行勧告は、家庭裁判所の調停・審判・人事訴訟で決めた内容について、取決めをした家庭裁判所から相手へ履行を促してもらう制度です。
申出に費用はかからず、書面、口頭、電話で申し出ることができます。ただし、履行勧告には差押えのように支払いを強制する効力はありません。
また、公正証書や父母だけで作成した合意書は、履行勧告の対象ではありません。手元の書面によって利用できる制度が違います。
履行命令に従わない場合の過料は不払い自体への刑事罰ではありません
家庭裁判所で決めた金銭の支払いについて、家庭裁判所は、相当の期間を定めて履行を命じることがあります。
履行命令を受けた人が正当な理由なく従わない場合、家庭裁判所は10万円以下の過料に処することができます。過料が科されても、未払い養育費が支払われたことにはならないため、回収には別に強制執行等を検討します。
強制執行は相手を処罰するための手続ではありません
強制執行は、相手の給与や預貯金等を差し押さえ、未払い養育費の回収を図る民事上の手続です。
調停調書、審判書、判決書、強制執行認諾文言付き公正証書等の債務名義に基づく方法と、2026年4月からの一般先取特権に基づく方法があります。
実際に支払いを受けられるかは、差し押さえる給与・預貯金等があるか、書類がそろうか、ほかの差押えがあるか等によって変わります。差押命令を申し立てれば回収できると決まっているわけではありません。
財産開示での不出頭や虚偽陳述には刑事罰があります
財産開示は、執行裁判所が相手を呼び出し、財産について陳述させる手続です。
執行裁判所の呼出しを受けた開示義務者が、正当な理由なく財産開示期日に出頭しない、宣誓を拒む、陳述すべき事項を述べない、虚偽の陳述をする等の行為には、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています。
これは、養育費を支払わないこと自体への刑事罰ではありません。裁判所の財産開示手続における特定の行為に対する罰則です。
2026年改正で回収手続の選択肢が増えました
2026年4月から、養育費に関して法定養育費、一般先取特権、ワンストップ執行手続が始まりました。
これらは、養育費の不払いを犯罪にした制度ではありません。取り決めがない場合の請求権や、差押えに使える法的根拠、財産調査から給与差押えまでの手続を整えたものです。
取り決めた養育費には一般先取特権が認められる場合があります
父母が協議して養育費額を決めた書面がある場合、調停調書や公正証書でなくても、一定の要件を満たせば一般先取特権に基づく差押えを申し立てられる場合があります。
書面には、子どもの監護者と非監護者、対象となる子ども、子どもごとの養育費額、支払期間、支払時期等が明確に記載され、真正に成立したものであることが必要です。
優先して回収できる範囲は、養育費または対象となる婚姻費用のうち、月額8万円に子どもの数を乗じた額が上限です。この上限は、実際の回収額を保証するものではありません。
取り決めがない場合は法定養育費が発生することがあります
2026年4月1日以後に養育費額を決めずに離婚し、離婚時から引き続き子どもを監護する父母の一方は、要件を満たせば、子ども1人につき月2万円の法定養育費を請求できます。
法定養育費は、父母が通常の養育費を取り決めるまでの暫定的・補充的な制度です。月2万円が通常の養育費の相場や上限になるわけではありません。
財産が分からない場合はワンストップ執行手続を検討できます
養育費等のワンストップ執行手続は、差し押さえる財産が分からない場合に、財産開示または勤務先情報の取得と、判明した給与債権の差押えを同じ申立ての中で進められる制度です。
利用には、扶養義務等に係る定期金債権や、財産開示・第三者からの情報取得に必要な書面等の要件があります。申立てだけで勤務先が判明する、または回収できると決まる制度ではありません。
手元の書面と未払い記録が手続の出発点です
罰則の有無だけでなく、現在どの手続を利用できるかを判断するには、手元の書面と未払い状況を分けて整理する必要があります。
| 整理する内容 |
具体的に見るもの |
| 取り決めの書面 |
調停調書、審判書、公正証書、合意書、離婚協議書等 |
| 未払い額 |
月額、支払日、入金額、差額、未払い月 |
| 相手の所在 |
現住所、連絡先、分かる範囲の勤務先 |
| 差押え対象の手がかり |
勤務先、金融機関・支店、所有不動産等 |
| これまでの連絡 |
LINE、メール、書面、電話日時のメモ |
書面によって、履行勧告、債務名義に基づく強制執行、一般先取特権に基づく差押え、養育費請求調停等の入口が異なります。手続を始める前に、原本や正本を処分せず、入金履歴と一緒にまとめてください。
不払い自体と裁判所手続での違反を分けて対応してください
養育費の不払いだけで直ちに刑事処罰されるわけではありません。しかし、支払義務が消えるわけではなく、履行勧告、履行命令、強制執行等を利用できる場合があります。
財産開示での不出頭・虚偽陳述等には刑事罰があり、履行命令違反の過料とは性質が異なります。2026年改正で加わった制度も、不払いを犯罪化したものではありません。
手元の書面、未払い月、入金履歴、相手の勤務先・口座の手がかりを整理すると、どの手続から検討するかを分けやすくなります。