養育費の振込みが止まると、「払わない相手に罰則はないのか」「警察に相談すれば逮捕されるのか」と考える方もいるでしょう。
結論からいうと、支払日を過ぎても養育費が振り込まれないという事実だけで、相手が直ちに逮捕されたり、罰金を科されたりするわけではありません。養育費の不払いは、原則として民事上の支払義務の問題だからです。
ただし、家庭裁判所が出した履行命令に正当な理由なく従わない場合や、財産開示手続で裁判所の呼出しに応じない場合には、別の制裁があります。ここで罰則の対象になるのは、単なる不払いではなく、裁判所の命令や手続への違反です。
罰則があるのは「不払い」ではなく、裁判所手続への違反です- 養育費の不払いだけ
直ちに刑事罰ではない
支払義務と未払い額は残り、差押えなどによる回収の対象になります。
- 履行命令に正当な理由なく従わない
10万円以下の過料
家庭裁判所の履行命令が出た後の違反です。過料は刑事罰ではありません。
- 財産開示手続で不出頭・虚偽陳述など
6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
裁判所の財産開示手続における違反であり、不払いそのものへの罰則ではありません。
養育費を払わないだけでは、原則として犯罪になりません
養育費は、子どもの生活費を父母が分担するための民事上の支払義務です。毎月の支払日を過ぎた、相手が催促に返事をしない、数か月分が未払いになったという事情だけで、警察が相手を逮捕して養育費を回収する制度ではありません。
そのため、次のような状態だけでは、通常は刑事罰の対象になりません。
- 決めた支払日に入金しなかった
- メッセージや電話で催促しても返事をしなかった
- 未払いが数か月、数年と続いている
もっとも、罰則がないことと、養育費を支払わなくてよいことは別です。支払義務は残り、未払い額が積み重なります。取り決めの内容によっては遅延損害金も発生し、給与や銀行口座の差押えを受ける可能性があります。
履行勧告を無視しても、それだけで罰則はありません
調停調書、審判書、判決書などで養育費が定められている場合、受け取る側は、その手続をした家庭裁判所へ履行勧告を申し出ることができます。
履行勧告では、家庭裁判所が支払状況を調べ、電話や書面などで支払いを促します。費用をかけずに利用できますが、勧告そのものに支払いを強制する力はありません。相手が履行勧告に応じなかったという理由だけで、過料や刑事罰が科されるわけでもありません。
履行命令に正当な理由なく従わないと、10万円以下の過料があります
履行勧告を受けても支払わない場合などには、家庭裁判所へ履行命令を申し立てられることがあります。履行命令とは、家庭裁判所が相手の言い分を聴いたうえで、期限を定めて未払い分の支払いを命じる手続です。
家事事件手続法290条5項は、履行命令を受けた人が正当な理由なく命令に従わない場合、10万円以下の過料に処すると定めています。
ここで大切なのは、支払日を過ぎた時点で自動的に過料が科されるわけではないという点です。次の条件が必要です。
- 家庭裁判所の審判、調停、判決などで養育費の支払義務が定められている
- 受け取る側の申立てを受け、家庭裁判所が履行命令を出している
- 支払う側が正当な理由なく、その命令に従わない
10万円以下の「過料」は刑事罰の罰金ではありません
過料は、法律上の秩序を守るために金銭的な負担を課す制裁です。刑事罰である罰金とは性質が違い、過料を科された事実は前科になりません。
また、過料は国に納めるお金です。相手に過料が科されても、そのお金が未払い養育費として受け取る側へ渡るわけではありません。過料と未払い養育費の回収は、別の問題です。
財産開示手続に違反すると、刑事罰の対象になることがあります
相手の勤務先や預貯金が分からず、差押えの対象を探す必要があるときは、地方裁判所へ財産開示手続を申し立てられる場合があります。
財産開示手続では、裁判所に呼び出された相手が、宣誓したうえで勤務先、預貯金、不動産などの財産を述べます。民事執行法213条は、次の行為に6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めています。
- 正当な理由なく財産開示期日に出頭しない
- 正当な理由なく宣誓を拒む
- 正当な理由なく必要な財産を述べない
- 財産について虚偽の陳述をする
これは刑事罰です。ただし、処罰の理由は「養育費を払わなかったこと」ではありません。裁判所の財産開示手続で、法律が定めた義務に違反したことが処罰の対象です。
相手からのメッセージを無視した、催促の電話に出なかったというだけで、この刑事罰が科されるわけではありません。受け取る側が財産開示を申し立て、裁判所が相手を正式に呼び出した後の違反が問題になります。
間接強制金と差押えは、相手を処罰する制度ではありません
養育費の不払いに関する説明では、間接強制金や差押えも「罰則」のように紹介されることがあります。しかし、どちらも相手を処罰するための制度ではありません。
間接強制金は、自発的な支払いを促すための金銭です
間接強制では、裁判所が「期限までに支払わなければ、養育費とは別に間接強制金を負担する」と定め、自分から支払うよう促します。刑事罰ではありません。
支払能力がない場合などには、間接強制の決定が出ないこともあります。決定後も支払わない場合は、養育費と間接強制金を受け取るために、別に差押えが必要になることがあります。
差押えは、未払い養育費を回収するための手続です
強制執行では、相手の給与や銀行口座などを差し押さえ、その財産から未払い養育費の回収を進めます。相手を罰するためではなく、支払われていないお金を受け取るための民事手続です。
罰則が科されても、未払い養育費が自動的に支払われるわけではありません
履行命令違反で過料が科されても、財産開示手続の違反で刑事罰を受けても、未払い養育費が自動的に入金されるわけではありません。
受け取る側の目的が未払い分の回収であれば、罰則の有無だけでなく、手元の書面から利用できる回収手続へ進む必要があります。調停調書、審判書、判決書、強制執行認諾文言付きの公正証書などがあれば、給与や銀行口座の差押えを利用できる場合があります。
父母だけで作った合意書や離婚協議書がある場合も、書面の内容によって利用できる手続があります。書面を作っていない場合は、養育費請求調停などで金額と支払日を定めることが入口になります。
「罰則があるか」と「どう回収するか」を混同しないことが大切です
養育費を払わないという事実だけで、相手が直ちに逮捕・処罰されるわけではありません。一方で、家庭裁判所の履行命令や地方裁判所の財産開示手続に違反すれば、過料や刑事罰の対象になることがあります。
未払い分を受け取りたいときは、相手を処罰できるかではなく、どの書面を使って、どの財産から回収できるかが重要です。調停調書、公正証書、離婚協議書など手元の書面と、未払いになった月・金額、これまでの入金履歴を弁護士へそのままお持ちください。