裁判所から給与の差押命令が勤務先へ届いても、会社が「対応しません」と言えば、養育費を受け取れないのでしょうか。
勤務先は、差押命令を会社の判断で無視し、差し押さえられた給与部分を相手へ払い続けることはできません。
ただし、勤務先から受取側へ直ちに直接送金されるとは限りません。相手がすでに退職している場合や、ほかの差押えがある場合など、会社が取る対応は状況によって異なります。
勤務先は差押命令を会社の判断で無視できません
給与の差押命令では、養育費を支払う相手が「債務者」、相手へ給与を支払う勤務先が第三債務者と呼ばれます。
差押命令が勤務先へ送達されると、差押えの効力が生じます。勤務先は、命令に書かれた範囲の給与を相手へ支払えなくなります。
勤務先が当事者間の養育費について賛成しているかどうかで、差押命令への対応を選べるわけではありません。
差押命令が届いた勤務先が確かめる内容
勤務先は、差押命令の当事者目録や差押債権目録を読み、相手を雇用しているか、これから支払期が来る給与があるか、ほかの差押えがあるかなどを調べます。
会社が確かめる主な内容と、受取側から見た意味を整理すると、次のようになります。
| 勤務先が確かめる内容 |
受取側から見た意味 |
| 相手を現在雇用しているか |
退職済みなどで給与債権がなければ、その勤務先からは取り立てられません |
| 給与・賞与・退職金などがあるか |
実際に存在する給与債権の範囲で差押えが進みます |
| ほかの差押えや滞納処分があるか |
複数の差押えが重なると、直接支払ではなく供託になることがあります |
| 差し押さえられた金額を支払うか |
「支払わない」と回答した場合は、その理由を読む必要があります |
「勤務先が支払わない」と回答したからといって、すべてが不当な拒否とは限りません。相手を雇用していない、退職済みである、今後支払う給与がないなど、差押対象となる給与債権が存在しない場合もあります。
陳述書には給与債権の有無や支払予定が記載されます
給与差押えの申立てと同時に陳述催告を申し立てていると、裁判所から勤務先へ陳述書が送られます。
勤務先は、差押命令が届いた日から2週間以内に、給与債権の有無、給与・賞与のおおよその額、支払うかどうか、ほかの差押えの有無などを回答します。
受取側にも陳述書が届いたら、まず次の点を読み分けます。
| 陳述書の記載 |
次に見ること |
| 現在雇用している |
給与・賞与の有無と、勤務先の支払予定を見ます |
| 過去に雇用していた |
退職日と、退職金など今後支払期が来る債権の有無を見ます |
| 雇用したことがない |
会社名や法人、相手の勤務先情報に誤りがないかを見直します |
| 支払わない |
給与債権がないのか、金額を争っているのか、ほかの理由かを読みます |
| ほかの差押えがある |
供託と裁判所での配当へ進む可能性を考えます |
陳述書が届かない、または内容が事実と異なるように見えるときも、それだけで会社への処分や養育費の支払いが決まるわけではありません。
故意または過失による不回答や不実の陳述によって損害が生じた場合は、勤務先の損害賠償責任が問題となることがあります。
受取側から勤務先へ支払いを求めます
養育費の給与差押えでは、差押命令が相手へ送達された日から1週間が経過すると、受取側に取立権が生じます。
取立てを始める前に、裁判所から届く送達通知書で、相手への送達日と取立可能日を見ます。その後、受取側から勤務先へ連絡し、振込先や支払方法を伝えます。
差押命令だけで自動的に入金されるわけではありません。勤務先から支払いを受けた後は、受け取った額を記載した取立届を裁判所へ提出します。
給与差押えの申立てから取立てまでの全体は、次の記事で書面と必要書類を含めて説明しています。
勤務先は直接支払ではなく供託することがあります
勤務先は、取立可能日以後に受取側へ直接支払うことができますが、差し押さえられた給与部分を法務局へ供託する場合もあります。
特に、ほかの債権者による差押えが重なっているときは、勤務先に供託義務が生じることがあります。この場合、受取側が勤務先から直接受け取るのではなく、裁判所が配当等を行います。
そのため、勤務先から直接振り込まれないという事情だけで、会社が差押命令を拒否したとは判断できません。陳述書や勤務先からの連絡で、供託の有無を見ます。
退職済みで給与債権がなければその会社からは回収できません
差押命令が届いた時点で相手がすでに退職し、給与や賞与、退職金などの支払いも残っていなければ、その勤務先に差し押さえる給与債権はありません。
この場合、勤務先が差押命令を勝手に拒否しているのではなく、差押えの対象自体が存在しないということです。
相手の転職先を調べる手続や、新しい勤務先への申立ては本記事の範囲を超えるため、ここでは扱いません。
給与債権があるのに支払われない場合は取立訴訟を検討します
相手が在職し、差押対象となる給与債権があるにもかかわらず、勤務先から支払いを受けられないときは、まず陳述書の内容と勤務先が支払わない理由を見ます。
供託、退職、給与債権の不存在などの事情がなく、勤務先が支払いに応じない場合は、勤務先を被告とする取立訴訟を検討します。
取立訴訟を提起すれば直ちに入金されるというものではありません。給与債権の存在、差押えの範囲、勤務先が支払わない理由を整理したうえで、訴訟を進めるか判断します。
給与差押えを含む強制執行の全体像は、次の記事で説明しています。
勤務先に伝わる内容と職場への影響は別に整理します
給与を差し押さえると、勤務先には裁判所から差押命令が送られます。ただし、社内で誰まで知るか、相手の仕事や雇用にどのような影響があるかは、会社ごとの対応にもよります。
勤務先への通知内容と職場への影響を知りたい方は、次の記事をご覧ください。
まとめ
勤務先は、裁判所から届いた給与の差押命令を会社の判断で無視し、差し押さえられた給与部分を相手へ払い続けることはできません。
一方で、相手が退職済みで給与債権がない場合、ほかの差押えと競合して供託する場合、給与債権の存在や金額を争っている場合など、受取側へ直接支払われない理由は複数あります。
勤務先から支払いを受けられないときは、陳述書、相手への送達日、取立可能日、供託の有無、給与債権の存在を順に整理しましょう。それでも存在する給与債権の支払いに応じてもらえない場合は、取立訴訟を含む次の対応を検討します。