養育費が支払われず、相手の給料を差し押さえたいものの、「勤務先に断られたら、結局受け取れないのでは」と不安な方も多いと思います。
裁判所から給与の差押命令が届くと、勤務先は「対応したくない」という理由だけで拒否できません。 差押命令で指定された給料の部分を相手本人へ渡さず、受取側へ支払うか、裁判所の手続に沿って供託します。
ただし、会社からすぐに入金されないことはあります。相手がすでに退職している、ほかにも差押えがあり供託する、給料の有無や金額を会社が争っているなど、理由によって進め方が変わるためです。
結論:勤務先は、会社の都合だけで給与差押えを拒否できません
給与差押えでは、裁判所から相手の勤務先へ差押命令が送られます。差押命令が勤務先へ届いた時点から、会社は、命令で指定された給料の部分を相手本人へ支払えなくなります。
裁判所の書類では、養育費を払わない相手を「債務者」、相手へ給料を払う勤務先を「第三債務者」と呼びます。第三債務者とは、この手続では相手の勤務先のことです。
勤務先は、「養育費は本人同士の問題だから関わりたくない」「事務処理が大変だから対応しない」といった理由で、裁判所の命令を無視できません。
さらに、差押命令が届いた後も会社が差押え分を相手本人へ払ってしまうと、会社が受取側へ同じ金額を支払う責任を負うことがあります。
会社から届く「回答書」は、給料があるかを知らせる書類です
給与差押えの申立てと一緒に、勤務先へ回答を求める手続も申し立てられます。これを「陳述催告」といいます。
この手続を付けると、裁判所から勤務先へ、相手が在職しているか、給料はいくらあるか、会社が差押え分を支払うかを答える用紙が送られます。
会社が記入して返すこの用紙の正式な名前が「陳述書」です。難しい名前ですが、受取側にとっては、相手の給料と会社の支払方針を知らせる回答書です。
会社は、差押命令が届いた日から2週間以内に回答します。返事の内容は、おおむね次の5つに分かれます。
会社から届いた返事に合わせて、次はこう進めます- 会社からの返事:「在職中で給料があり、支払う」
会社は差押命令に沿って差押え分を支払う予定です。
あなたが次にすること:相手へ差押命令が届いてから1週間が過ぎた後、勤務先へ振込先を知らせ、支払日を決めます。
- 会社からの返事:「在職中で給料はあるが、支払わない」
給料の金額や差押えの範囲を、会社が争っている可能性があります。
あなたが次にすること:会社へ支払わない理由を尋ねます。給料があるのに応じない場合は、取立訴訟で会社へ請求できます。
- 会社からの返事:「すでに退職しており、給料はない」
その会社には、差し押さえられる給料が残っていません。
あなたが次にすること:新しい勤務先が分かったときは、転職先を対象にして改めて給与差押えを申し立てます。
- 会社からの返事:「差押えが重なっているため、供託する」
会社は拒否しているのではなく、差押え分を法務局へ預けます。
あなたが次にすること:勤務先へ直接の振込みを求めず、裁判所から届く配当に関する書類を待ちます。
- 会社から返事が届かない
返事がないだけでは、会社からの入金は始まりません。
あなたが次にすること:会社へ書類が届いた日を裁判所へ尋ね、2週間を過ぎていれば勤務先へ返送状況を問い合わせます。
会社から「支払う」と返事が来たら、振込先を連絡します
養育費の給与差押えでは、差押命令が相手本人へ届いた日から1週間が過ぎると、受取側は勤務先へ差押え分の支払いを請求できます。
裁判所から受取側へ届く「送達通知書」には、差押命令が相手本人へ届いた日が書かれています。その日から1週間が過ぎた後、勤務先の給与担当者へ連絡し、振込先を知らせ、初回とその後の支払日を決めます。
差押命令が出ただけで、会社から受取側の口座へ自動的に振り込まれるわけではありません。 受取側から振込先を伝え、会社と支払方法を決める必要があります。
支払いを受けたら、受け取った金額を記載した取立届を裁判所へ提出します。未払い分をすべて受け取ったときは、取立完了届を提出します。
給与差押えの申立てから会社へ振込先を伝えるまでの流れは、次の記事で詳しく説明しています。
会社から返事が来ないときは、2週間後に裁判所と会社へ問い合わせます
陳述催告を申し立てているのに会社から回答書が届かないときは、裁判所へ、差押命令と回答用紙が会社へ届いた日を尋ねます。
会社へ届いた日から2週間が過ぎていれば、裁判所へ回答書の提出状況を尋ねたうえで、勤務先の給与担当者にも返送状況を問い合わせます。
会社が回答しなかっただけで、養育費の支払いが自動的に決まるわけではありません。一方、会社が故意または不注意で回答せず、そのために損害が生じたときは、会社の損害賠償責任が問題になることがあります。
相手が退職していたら、その会社からは回収できません
相手がすでに退職し、給料、賞与、退職金など、その会社から今後支払われるお金が残っていなければ、その会社には差し押さえる対象がありません。
これは会社が拒否したのではなく、差し押さえる給料がない状態です。以前の勤務先への差押命令だけで、転職先の給料まで差し押さえることはできません。
新しい勤務先が分かったときは、その勤務先を対象にして、改めて給与差押えを申し立てます。
会社が「供託する」と答えたら、裁判所からの配当を待ちます
供託とは、会社が差押え分を受取側へ直接払わず、法務局へ預ける手続です。ほかの債権者も給料を差し押さえている場合などに行われます。
供託は、会社が給与差押えを拒否したという意味ではありません。 供託されたお金は、裁判所の配当手続を通じて受け取ります。会社へ直接の振込みを求め続けるのではなく、裁判所から届く配当関係の書類を待ちます。
給料があるのに会社が払わないときは、会社へ支払いを求める裁判があります
相手が今も働いており、差押えの対象となる給料もある。それでも会社が差押え分を払わない場合は、会社へ支払いを求める裁判を起こせます。この裁判を「取立訴訟」といいます。
取立訴訟で相手にするのは、養育費を払わない本人ではなく、その人へ給料を払う勤務先です。会社を罰するためではなく、差押命令によって受取側が受け取れる給料の支払いを求める手続です。
会社が払わないからといって、裁判所が自動的に会社から取り立ててくれるわけではありません。 会社からの回答書、差押命令、送達通知書、給料の支払日、会社へ振込先を伝えた記録を手元に置いて、取立訴訟が必要かを判断します。
会社の返事の意味が分からないときは、届いた書類をそのまま見せてください
会社から「支払わない」とだけ書かれた回答書が届いた、給料があるはずなのに入金されない、会社から返事が来ない。このような場合は、会社が拒否しているのか、退職や供託など別の理由があるのかを、届いた書類から読み分ける必要があります。
弁護士へ相談するときは、会社からの回答書、差押命令、送達通知書、入金履歴をそのままお持ちください。会社へ何を伝えるのか、取立訴訟まで必要なのかを、書類に沿ってご案内します。