海外には、行政機関が養育費の徴収を支援する国、支払いを仲介する国、子どもと暮らす親へ公的給付を行う国があります。
ただし、養育費が一度遅れただけで逮捕や出国禁止になる、国が未払い額を全額立て替える、という単純な制度ではありません。誰が制度を運営し、どの条件で何を行うのかを分けて見ることが大切です。
海外の未払い対応は運営主体と利用条件を分けて比べます
同じ「養育費の未払い対策」でも、徴収支援、支払仲介、行政上の措置、公的給付では役割が異なります。
| 国 |
主な運営主体 |
主な仕組み |
確認したい条件・限界 |
| 米国 |
州・部族・地方の養育費機関と連邦機関 |
所在確認、養育費命令の設定、給与控除、一定の場合のパスポートサービス拒否等 |
措置は州や手続により異なり、連邦刑事法の対象は限定される |
| 韓国 |
養育費履行支援機関、関係行政機関 |
請求・執行支援、一定の場合の免許停止、出国禁止、名簿公開 |
家庭裁判所の履行命令後の滞納額・回数等の要件と個別審議がある |
| フランス |
CAF・MSAが運営するARIPA |
毎月の支払仲介、未払い回収、要件を満たす場合の家族支援手当 |
原則として養育費額を定めた執行力ある文書や給付要件が必要 |
| スウェーデン |
社会保険庁 |
要件を満たす家庭へのmaintenance supportと支払義務者からの償還 |
監護・居住・年齢等の要件があり、一定期間の適切な支払い後は直接払いへ移る場合がある |
| 日本 |
父母、家庭裁判所、地方裁判所等 |
取り決め、履行勧告・履行命令、差押え、2026年からの新制度 |
手元の書面、離婚日、対象財産等により利用できる手続が異なる |
この表は制度の優劣を決めるためのものではありません。各国で家族法、行政機関、社会保障の仕組みが異なるためです。
米国では地域の養育費機関が徴収を支援します
米国では、連邦のOffice of Child Support Servicesが全国のプログラムを監督し、実際の所在確認、親子関係の確定、養育費命令の設定、徴収等は州・部族・地方の機関が担います。給与からの控除も重要な徴収手段です。
滞納が2,500ドル以上として連邦機関から認証された場合、パスポートサービスが拒否されることがあります。運転免許停止等は州ごとに制度や手続が異なります。
連邦刑事法が適用されるのは、州をまたぐ子どものための裁判所命令について、故意の不払いが一定期間・金額を超える場合等に限られます。米国でも不払いが一度あれば自動的に逮捕されるわけではありません。
韓国の行政上の措置には履行命令後の要件があります
韓国では、養育費履行支援機関が請求の確定や執行を支援しています。
家庭裁判所の履行命令を受けても支払わず、未履行額が3,000万ウォン以上、または3期以上履行していない場合等は、運転免許停止、出国禁止、名簿公開の申請対象になります。
ただし、すべての措置が同時に自動適用されるわけではありません。関係機関への要請と審議を経て、個別に決定されます。
フランスでは支払仲介・未払い回収・公的給付を分けます
フランスでは、CAFまたはMSAが運営するARIPAが、支払う側から毎月の養育費を受け取り、受け取る側へ送金する金融仲介を行います。遅延や不足があれば、任意回収の後、勤務先や銀行等からの直接回収へ進む場合があります。
この仲介には、原則として養育費額を定めた執行力のある文書が必要です。
また、子どもを一人で養育し、他方親が扶養に参加していない、または養育費が基準額より少ない等の要件を満たす場合は、家族支援手当の対象になり得ます。未払い養育費の全額を国が無条件に立て替える制度ではありません。
スウェーデンでは公的給付と支払義務者の償還を組み合わせます
スウェーデンでは、別居する親から養育費が支払われない、定額の公的支援より少ない、期限どおりに支払われない場合等に、子どもと暮らす親がmaintenance supportを申請できます。
社会保険庁が支援を支給した場合、支払義務者は所得や扶養する子どもの人数等に応じて、同庁へ全部または一部を返済します。
支払義務者が12か月続けて正しい額を期限どおりに支払った場合は、公的支給を続ける理由を確認し、父母間の直接払いへ移ることがあります。国がすべての家庭の養育費を恒久的に保証する仕組みではありません。
日本では手元の書面と未払い状況で選ぶ手続が変わります
日本では、養育費の取り決めがあるか、その書面が何か、相手の給与・預貯金等を把握しているかによって、利用できる手続が異なります。
| 手元の状況 |
検討する手続の例 |
注意点 |
| 家庭裁判所の調停調書・審判書・判決書等がある |
履行勧告、履行命令、強制執行 |
履行勧告と履行命令は家庭裁判所で決めた内容等が対象。強制執行には別の申立てが必要 |
| 強制執行認諾文言のある公正証書がある |
給与・預貯金等への強制執行 |
対象財産、必要書類、送達等の確認が必要 |
| 父母の書面がある |
2026年4月以後の一般先取特権を利用できるか確認 |
対象となる養育費債権、書面、月額上限等の要件がある |
| 取り決めがない |
父母の協議、養育費請求調停 |
2026年4月1日以後の離婚では法定養育費を請求できる場合がある |
2026年の日本制度は役割の異なる仕組みです
2026年4月1日から、法定養育費、一般先取特権、養育費のワンストップ執行手続が始まりました。
| 制度 |
主な役割 |
誤解しやすい点 |
| 法定養育費 |
同日以後の離婚で取り決めがない場合に、要件を満たす親が子ども1人につき月2万円を請求できる |
通常の養育費相場や国の立替給付ではない |
| 一般先取特権 |
一定の養育費債権について、子ども1人につき月8万円を上限に担保権実行を申し立てられる |
月8万円が支給・回収される制度ではない |
| ワンストップ執行手続 |
一定の場合に、第三者からの情報取得と給与等の差押えを同じ申立てで進める |
相手の財産や勤務先が見つかること、実際に回収できることを保証しない |
相手が国外にいる場合は別の確認が必要です
本記事で紹介したのは、それぞれの国の国内制度です。日本で決めた養育費について相手が海外に住んでいる場合は、外国判決の承認・執行、相手の居住国、利用できる国際協力等を個別に確認する必要があります。
海外の制度をそのまま日本で申し立てることはできません。相手が国外にいる場合は、国際的な家事事件を扱う相談窓口で、取り決めの書面と相手の居住地を示して確認してください。
海外との比較より日本で使える手続を確かめることが大切です
海外の未払い対応には、公的機関による徴収支援、支払仲介、行政上の措置、公的給付などがあります。いずれも対象・要件・限界があり、不払いがあれば一律に逮捕・出国禁止・全額立替えとなるわけではありません。
日本で養育費が支払われていないときは、まず取り決めの書面、未払い期間、入金記録、相手の住所・勤務先・口座情報を整理してください。海外との優劣ではなく、今ある書面と情報から利用できる手続を選ぶことが、回収へ進むための出発点です。